研究概要 |
本研究ではまず, ペリレン誘導体(PTCBI, n型半導体)とテトラフェニルポルフィリン(MTPP, p型半導体)からなるp/n型有機フィルムを種々作製し, それらを光アノードとして適用した条件でアンモニアの酸化分解活性を調べた. 詳細はまだ明らかではないが, M = H2およびZnとした場合にボルタモグラム上で光アノード電流の発生が見られた. また, アンモニアをボランと錯体化させたもの(アンモニアボラン)を電解質水溶液として用いた条件では, PTCBIとコバルトフタロシアニン(CoPc, p型半導体)からなる光アノード上で酸化的に窒素が生じることを確認し, さらに無バイアス条件では窒素に加えて, 還元的に水素が生じ, 水相中で光触媒的にアンモニアボランの分解が起こる例も初めて明らかにした. さらに, 前年度に見いだしたフラーレン(C60, n型半導体)と亜鉛フタロシアニン(ZnPc, p型半導体)からなるp/n型有機フィルムを光アノード(酸化用光触媒)とし, それに白金線を連結して光触媒系を構成したところ, ヒドラジン(アンモニアの中間酸化生成物)の分解が起こり, 窒素(酸化生成物)と水素(還元生成物)が化学量論比1:2で生じることを見いだした. 光電解実験からヒドラジンの4電子酸化による窒素生成に対する電流効率が90%以上であることを確認したことから, ヒドラジンの2電子酸化によるジアゼン生成およびその自然分解を経た窒素生成ではないと判断された. ZnPc表面上にヒドラジンの吸着材としてナフィオン膜を担持した条件では, その濃縮効果により光触媒活性が向上することも明らかにしたとともに, 30時間(通算照射時間)以上の光触媒系の安定性も確認した. 紫外域無機半導体系光触媒では2例ほどあるが、上記はヒドラジンの完全分解が可視域光触媒系で誘起された初めての例となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水相中, かつ可視光照射下において水素発生を伴ってアンモニアボランの分解が起こる初めての例を見いだした. また, アンモニアの酸化中間生成物(ヒドラジン)の4電子酸化により, 化学量論的に窒素と水素がもたらされることを光触媒的条件下で見いだした. これまでに例のない, 可視光エネルギー, それも可視全域の光エネルギーによりヒドラジンの完全分解が誘起可能な光触媒系を見いだしたことが特筆される. カーボンフリーの水素貯蔵材料(ヒドラジン)から多電子過程反応により水素をもたらす光触媒系を有機半導体材料により創製できた点でも, 意義深い結果となった.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度はアンモニアの多電子酸化を誘起可能なp/n型有機フィルム材料の探索をより一層進めるとともに, コアシェル型のPt-Ir系をはじめとする助触媒(暗時の触媒)を担持した条件も設定して検討を行う. また, p/n型有機フィルムは従来の無機半導体系には見られない特長(可視全域の光エネルギーの利用, 紫外光照射下でしか見いだされてこなかった多電子過程反応の実現など)を有する光触媒デバイス系となりうることが本研究からも明らかとなった. アンモニアの酸化中間生成物であるヒドラジンの分解反応は多電子過程により水素をもたらす点で, 大量分解型の光触媒反応モデルの一つと位置づけてもよく, 基礎科学的にも非常に興味深い. 上記の可視域光触媒反応系を通して, 大量出力化の道筋(他材料系の探索、光触媒の高活性化など)も探っていきたい.
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