研究課題/領域番号 |
23550148
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
久田 研次 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60283165)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / イギリス / 界面不動層 / ATR-FTIR分光法 / チェーン・マッチング効果 / ターゲット因子解析 |
研究概要 |
1)吸着単分子膜が形成する界面不動相の解析に適したATR赤外スペクトル測定条件の選定 当初計画では,ラングミュア・ブロジェット法により油性剤の単分子膜をATRプリズム上に累積する計画であったが,より実際の潤滑面に近い不動層を調製するために,アルカン相に溶解した油性剤のプリズム表面への界面濃縮により吸着単分子膜を調製することにした.そのため,入手可能なATRプリズム(Ge, ZnSeならびにKRS-5)を用いた多重反射スペクトルと透過スペクトルを比較し,ZnSeプリズムが界面濃縮を定量的に評価するのに適当なプリズムであると選定し,少量多種測定によりの系統的な評価を可能にする1回反射ATRベースキットを購入設置した.2)ATR赤外スペクトルの解析手順の確立 ATRスペクトルから吸着単分子膜ならびに界面不動相に関する情報を抽出する手法として,ターゲット因子解析(TFA)を用いた解析システムを導入した.油性剤として脂肪酸の一種であるパルミチン酸を用いた場合,パルミチン酸濃度が500-1000 ppmの範囲で,アルキル鎖のコンホメーション分布に依存するCH伸縮振動領域のスペクトルに顕著な変化が観測されなかった.この結果から,スペクトル形状が変化しない多成分系の組成解析を行うTFAが本研究の解析法として適切であることを明らかにした.3)長鎖アルカン相と接触した単分子膜のATR赤外スペクトル測定 吸着単分子膜を形成する両親媒性分子のアルキル鎖長とアルカンの鎖長が一致するときに良好な潤滑特性を示すチェーン・マッチング効果は,極性基に依らず普遍的に観測されている.そこで,長鎖アルキル鎖を有する脂肪酸(炭素数:8~20),アルキルアミン(炭素数:6~18)ならびにアルコール(炭素数:8~20)のアルカン(炭素数:8~16)溶液をZnSeプリズムと接触させて,ATR赤外スペクトルを測定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画では,(1)長鎖アルカン溶液と接触した単分子膜のATR赤外スペクトル測定,(2)ATR赤外スペクトルの解析手順の確立および(3)長鎖アルカン相と接触した単分子膜のATR赤外スペクトル測定の3項目を予定していた.(1)より実際の潤滑面に近い不動層を調製することと,アルキル鎖長や極性基の異なる多様な油性剤の界面不動層に及ぼす影響を検討するために,単分子膜の調製方法を当初計画のラングミュア・ブロジェット法から吸着法に変更した.この変更のために,ATRプリズム素材の変更という新たな検討課題が必要になったが,本系で定量的な分光測定を行うのに適したプリズムを選定し,今後本研究のATR-FTIR分光測定で利用する主要設備の選定に至った.(2)チェーン・マッチングしている代表的な組み合わせであるパルミチン酸のヘキサデカン溶液のATR-FTIRスペクトルから,潤滑効果を向上させるのに必要な濃度領域では,CH伸縮振動領域のスペクトル形状に顕著な変化が見られず,この系ではターゲット因子分析による成分分析が適用可能であることを示した.上記2項目については,当初計画をほぼ達成している.(3)当初予定の脂肪酸単分子膜以外に,長鎖アミンや高級アルコールを添加した場合のATR-FTIRスペクトルを測定した.ただし,TFAを用いてこれらのスペクトルの因子解析を完了するには至っておらず,次年度以降の検討課題になっている.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に測定した多様な油性剤を添加したアルカン溶液のATR-FTIRスペクトルについてTFAを利用した成分解析を行う.これと並行して,上記スペクトルを測定したのと同じ各種油性剤のアルカン溶液を流動相として,これらと接触した界面における摩擦力を測定する.摩擦力測定には(a)分子論的な議論をするために水平力顕微鏡(LFM)による微視的摩擦力測定と(b)工業的な駆動機械に近い条件で測定可能な表面性試験機を用いた巨視的摩擦力測定の2つの方法を用いる.先に測定したATR-FTIRの解析結果と摩擦力測定の結果と比較し,形成された不動層の構造(分子密度や膜厚など)と摩擦挙動の関係について議論する.
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度に本研究の主要設備の導入を完了したので,平成24年度以降は界面不動層の調製,分光測定ならびに摩擦力測定に必要な消耗品を中心に予算を執行する.初年度に研究協力者である英国ダラム大学のColin D. Bain教授を訪問し,研究打ち合わせを行う予定であったが,平成23年度の前半は震災の影響で経費の執行が不透明であった点と,平成24年5月に同教授が来日することが決定したため海外旅費が未執行となっている.データが蓄積される平成24年度後半を目途に渡航し,研究成果に関する情報交換を行う予定である.
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