研究概要 |
【単結晶育成と同定】k-ET2Cu2(CN)3における1-10%のヘテロダイマー導入試料(部分分子置換結晶)の育成を行った.試料同定のため,エックス線回折を行い,k型構造が維持されていることを格子定数から確かめた.10%までの添加試料で未置換塩との格子定数に有意な差は見出せていない. 【電気抵抗】電気抵抗の温度依存性において,PT分子置換体では25K以下の低温域で金属的挙動が見られた.未置換塩の圧力下電気抵抗との比較から,分子置換による正の化学圧力効果によるものと考えられる.この結果から誘電率測定をMT分子置換体で進める方針とした.【静磁化率】5 T で測定した静磁化率の温度変化は未置換塩では絶対零度で有限の磁化率に向かう挙動ある.これに対し,1%, 2%MT 添加塩では約8 K 以下の温度で未置換塩の磁化率を下回る傾向を有し,絶対零度への外挿値はほぼゼロである.この測定結果から,1%未満のMT 添加によってスピン液体的なフラストレーションが抑制され,シングレット的スピン状態を基底状態として与える可能性を示唆する.【誘電率】本交付金で購入頂いたターボポンプとLCRメータを用い,冷凍機クライオスタットでの誘電率測定システムを構築した.MT0, 1, 5%添加育成した試料で500 Hz~1 MHzでの誘電率に関する周波数依存性の測定を行った.MT添加量が多い程,周波数依存性が小さくなる傾向が見られ,緩和型の誘電特性をもたらすドメイン構造形成がヘテロダイマー導入によって抑制されていることを示唆する.
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今後の研究の推進方策 |
結晶はMT分子を0.1, 0.5, 1, 2, 3, 4, 5%添加し育成する.想定以上に試料依存性が大きいことから,正確な置換量の決定が必要である.置換量の決定のために計画していた反射率測定の代わりに,より精度の高い質量分析法での決定を検討中である.育成した結晶について,電気抵抗率,磁化率,誘電率の系統的な測定を行うことで,ヘテロダイマーの導入効果について詳しい考察を行う.
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