研究課題
【単結晶育成と同定】MTを添加育成したk-ET2Cu2(CN)3の単結晶エックス線構造回折を行い1%以上の添加試料でa軸格子定数のみ単調減少していることを見出した.高濃度試料ほどR値を20%以下に下げるのが困難な傾向があり,より詳細な構造の情報を得るのは今後の課題であるが,結晶中で添加量に比例した量のMT分子が取り込まれていることは明らかである.一方比較対象としてモット絶縁体の典型例であるb’-ET2ICl2において同様のMT添加育成を行ったところ,1%未満のわずかな微量添加でも良質な添加単結晶を得るのが困難であることがわかった.陰イオン置換したb’-ET2(ICl2)1-x(AuCl2)xは良質の結晶育成が可能で,エックス線回折とEDX分析により仕込み比に等しい混晶であることを確認した.【誘電率】昨年度に引き続き,MT添加試料で500 Hz-1 MHzでの誘電率測定を行った.MT添加量が多くなるにつれ誘電率の極大値は低温側に単調にシフトした.Curie-Weiss則に基づく解析から,Curie定数が10%添加塩では未置換塩の半分まで減少した.このことはMTの添加によりダイマー内での双極子の誘起が抑制されていることを示唆する.結晶中の置換量が添加量と等しいと仮定するとMT一分子によって自身の二量体上の双極子だけでなく隣接サイトへ影響を及ぼし,周囲のET-ET二量体上の双極子誘起における抑制を考慮することで実験結果を半定量的に理解できる.一方でb’-ET2(ICl2)1-x(AuCl2)xの誘電率測定では50%のアニオン置換塩で有意な極大値の減少が見られた.
2: おおむね順調に進展している
エックス線構造解析から,結晶中でのMT置換分子の取り込みが起きていると結論した.誘電率について昨年度の課題であった測定の再現性を含めた十分な実験を行うに至り,MT分子添加量0, 0.5, 1, 2, 6, 10%の試料における実験結果を得ることができ,国内学会にて2件の成果発表を行った.上記のような状況から,計画通りの進捗であると判断した.
置換量の質量分析法による決定を山梨大学クリーンエネルギー研究センターとの共同研究で進行中である.b’-ET2(ICl2)1-x(AuCl2)xの磁化率と誘電率の系統的な測定を行い,k-ET2Cu2(CN)3との比較を行うことで,ヘテロダイマーの導入効果について考察を進めることが可能である.
約20万円の繰越分は,出張旅費を他の経費にて捻出したことによる.次年度に消耗品費として支出予定である.
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