研究課題/領域番号 |
23550152
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
道岡 千城 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70378595)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 複合積層化合物 / 超伝導 / 反強磁性スピン揺らぎ / 新奇物性開拓 / 新規物質開発 |
研究概要 |
国際的に多くの研究が行われている新規鉄系高温超伝導体のうち,カルコゲナイド系,FeTe1-xSexに着目し、物性研究を行った。その結果、Te層とTe層の真ん中のサイト(Fe(II)サイト)に余分な鉄が挿入され,実際にはFe1+δTe1-xSexという組成の化合物となり,余分な鉄は局在磁性に近い強いモーメントを発生すること,微量な不純物とて混入したマグネタイトFe3O4の130 K付近のVerwey 転移が磁化に強く寄与することが明らかになった。本研究では合成時において酸素が混じらないように注意することによりマグネタイトの混じらないFe1+δTe1-xSexの単結晶の育成に成功し、NMRのナイトシフトと比べることにより、余分な鉄は局在性の強いキュリー項を発生し,遍歴磁性のFe(I)サイトに起因する磁化率は低温で減少することを明らかにした。またSeの量xを変えていくとx=0では反強磁性金属であり、xが増えていくと反強磁性が抑制され、超伝導が現れることが明らかになった。 その純良なFe1+δTe1-xSex系に関してNMRを用いてその磁気的性質を明らかにした。NMRにおける1/T1Tはq空間における動的スピン帯磁率の総和をあらわしている。常磁性状態において1/T1Tが温度の低下とともに増強されるのは、減少するナイトシフトの温度変化とは対照的であり、有限のqにおける動的スピン帯磁率が増加する、つまり反強磁性揺らぎが発達していることを示している。またx=0, 0.05, 0.32の試料におけるT1Tは二次元反強磁性スピン揺らぎのSCR理論によるT1T = C -1 (T- Θ) とキュリーワイス的な温度変化を示した。このときのワイス温度が0となるところが反強磁性量子臨界点に対応していて、それがx=0.02付近と非常に小さいことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は大きく分けて2つあり、ひとつは新規二次元複合化合物の探索であり、もうひとつは物性解明である。本年度は特に鉄系カルコゲナイド超伝導体において、その反強磁性相互作用が超伝導と深くかかわっていることを明らかにした。このことは他の鉄系高温超伝導体の超伝導発現メカニズムを論じるうえでも非常に重要な成果であり、本研究が順調に目標を達成していることを示している。今後新しく見つかった、FeSeの層間にKやTlをドープした系でもNMR研究からスピン揺らぎとその超伝導との関係、また超伝導状態のクーパー対の対称性についても議論する予定である。 またもうひとつの研究目的である、新規物質開発についても着々と研究が行われている。特に新規金属間化合物Yb3Ru4Al12、YbRuAl3について既存のアーク溶解合成炉を用いて合成を行い、次いでNaCl-Flux法により単結晶を育成することに成功した。またこれまでCrの特異な価数状態に起因し、純良な結晶の合成が困難であったCrSe2の結晶育成と小さいながらも単結晶の作製に成功した。今後これらからも新しい物性が現れることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
この研究のひとつの核になっている鉄系超伝導体の超伝導発現機構の解明に対して、(Tl,K)FexSe2系のNMR研究を行う予定である。これまでの研究からFe系では反強磁性揺らぎは超伝導と深いかかわりをもち、高温超伝導体同様,クーパー対形成の起源となっていると考えられる。幸い、いわゆる11系(FeSe)と異なり、この(Tl,K)FexSe2系ではTlサイトにおいても簡単にNMR研究を行うことが出来る。これらの研究をSe-NMRの研究とあわせて物性を鑑みることにより、この物質の微視的物性についてより多くの知見が得られることが期待される。また新規物質である、Yb3Ru4Al12、YbRuAl3やCrSe2についてもその物性の詳細を明らかにする。 また物質開発に関しては以下に説明する複合積層化合物の合成に挑戦する。申請者はこれまでの研究で遷移金属ダイカルコゲナイド層と希土類金属カルコゲナイド層を有する複合積層化合物として (RS)x[M0.33(NbS2)2] (R = La, Ce, M = Mn, Fe, Co)の単結晶育成に成功し,二次元三角格子上における磁気的性質を明らかにした 。そのRX層とFeX層についてどちらも格子定数が近い正方晶系であることから高圧合成やフラックス法、化学輸送法により複合積層したRFeX2の単結晶育成が可能であると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では消耗品として、主に物質合成に必要な高純度原料、石英管の購入を予定している。また既存の物性測定に加えて、新たに熱起電力を低温で測定する装置を開発予定である。そのために熱電対と低温プローブの材料を購入予定である。また大学のシステム上"その他"に分類されるが、消耗品に対応する寒剤を購入予定である。これらは低温物性測定に欠かせない。購入した液体ヘリウムは本学低温センターで再凝縮され、また安価で購入することが出来るシステムとなっている。
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