研究課題/領域番号 |
23550152
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
道岡 千城 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70378595)
|
キーワード | 積層化合物 / 遍歴電子磁性体 / 量子臨界点 |
研究概要 |
新たな複合積層化合物の発展を目指し、主に二つの物質系について物質開発と物性の解明研究を行った。 ひとつは国際的に多くの研究が行われている新規鉄系高温超伝導体のうち,カルコゲナイド系,FeTe1-xSexに着目し物性研究を行った。前年度において、Te層とTe層の真ん中のサイト(Fe(II)サイト)に余分な鉄が挿入され,実際にはFe1+δTe1-xSexという組成の化合物となり,余分な鉄は局在磁性に近い強いモーメントを発生すること,微量な不純物とて混入したマグネタイトFe3O4の130 K付近のVerwey 転移が磁化に強く寄与することを明らかにしている。当該年度では前年度の結果を踏まえて、正しく化学的に同定された単結晶を用いて125Te-NMR研究から、その磁気揺らぎの詳細を明らかにした。その結果、母体の反強磁性体FeTeからTeサイトをSeで置換していくと反強磁性がつぶれて超伝導体となるが、それは一次相転移であり、超伝導はFeTeの反強磁性とは関係ない遍歴反強磁性の量子臨界点近傍で起きていることを明らかにした。 もうひとつの物質系として、SrCo2P2とその周辺物質ついて遍歴強磁性量子臨界点近傍の物性研究を行った。その結果SrCo2P2における強磁場磁化過程から60 Tでメタ磁性転移を発見し、またSrをCaに置換することでメタ磁性転移磁場低下する強磁性量子臨界点に近づく振る舞いを明らかにした。これらの結果から今後さらに強磁性量子臨界点近傍の新奇物性の発現が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は新規二次元複合化合物の探索とその物性解明である。本年度までの研究において鉄系カルコゲナイド超伝導体が反強磁性量子臨界点近傍で起きていて、反強磁性相互作用が超伝導のクーパー対形成を引き起こす原動力となっていることを明らかにした。本研究の対象であるカルコゲナイド系は鉄系超伝導体のうちでもっとも単純な構造を有することから、今回得られた結果は全ての鉄系超伝導体の特徴であると考えられる。 今後新しく見つかった、Fe(Te,Se)の層間にKやTlをドープした系の微視的研究から、鉄系超伝導体において2次元性の担う役割を明らかにできると考えられる。 また本年度では層状化合物のうちで非常にまれな遍歴強磁性体SrCo2P2とその周辺物質ついて物性探索を行った。その結果、遍歴強磁性量子臨界点に近い金属において遍歴メタ磁性転移を観測し、その詳細を明らかにした。これらの結果を踏まえて、いまだ良く分かっていない、2次元強磁性量子臨界点のスピン揺らぎの研究を展開することができる。
|
今後の研究の推進方策 |
まずはじめに上に記した鉄系超伝導体の超伝導発現機構の解明に対して、(Tl,K)FexSe2系のNMR研究を行う予定である。これまでの研究からFe系では反強磁性揺らぎは超伝導と深いかかわりをもち、高温超伝導体同様,クーパー対形成の起源となっていると考えられる。幸い、いわゆる11系(FeSe)と異なり、この(Tl,K)FexSe2系ではTlサイトにおいても簡単にNMR研究を行うことが出来る。これらの研究をSe-NMRの研究とあわせて物性を鑑みることにより、この物質の微視的物性についてより多くの知見が得られることが期待される またSrCo2P2周辺化合物の新たな量子臨界点の探索を行うため、PサイトをGeに置換した物質SrCo2(P1-xGex)2の物性研究を行う。予備的な研究においてはx = 0.025, 0.05とGeを置換するに従い、メタ磁性転移磁場が減少し磁化曲線の跳びが小さくなった。またx = 0.2以上の試料ではメタ磁性転移が観測されなかった。これはGeの置換に伴いCoの3dバンドへのホールドープにより、メタ磁性転移を引き起こす状態密度の高いバンドから電子が取り除かれたと考えられる。今後、より微視的物性をNMRを用いて明らかにすることによりこの新奇物性について理解することが可能であると考えられる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究では消耗品として、主に物質合成に必要な高純度原料、石英管の購入を予定している。また大学のシステム上"その他"に分類されるが、消耗品に対応する寒剤を購入予定である。これらは低温物性測定に欠かせない。本学では購入した液体ヘリウムは低温センターで再凝縮され、また安価で購入することが出来るシステムとなっている。これにより、通常高価な寒剤代のかかる低温でのNMR研究を遂行することができる。
|