研究概要 |
分子性導体のドナー成分の一つとして知られるテトラチアフルバレン(TTF)にアクセプター部位を導入した分子系はより小さなHOMO-LUMOギャップを持つことが期待されることから,単一成分伝導体の候補として興味がもたれる。そこでアクセプター部位としてビニローグ骨格にシアノ基を有するTTP(1)の開発を行った。 新規TTP系ドナー(1)の合成を以下に示す。まず,2-シアノ-1,3-ジチオール誘導体をVilsmeier-Haack反応させることにより2-シアノ-2-ホルミル-1,3-ジチオール(2)とした。これにWittig-Horner反応させることで1,3-ジチオール-2-チオンが縮環したTTFビニローグ(3)とした。得られた2と3を亜りん酸トリエチルによるクロスカップリング反応させることで1を得た。1の電気化学的性質をCV法によって測定したところ0.06, 0.23, 0.57, 0.78 Vに4対の1電子酸化還元波が観測された(V vs Fc/Fc+ , in PhCN)。1の第一酸化電位は、シアノ基が一つしか導入されていない4のより0.18 V高電位側へシフトしている。また,1の紫外可視吸収スペクトルを測定したところ,4に比べ吸収極大が長波長側へ43 nmシフトしている。これはHOMO-LUMOギャップが小さくなったことを示唆している。
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