研究課題/領域番号 |
23550158
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
美藤 正樹 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60315108)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 磁性ナノ粒子 / 異方的ひずみ / 高圧力実験 / 磁気測定 / 構造解析 |
研究概要 |
本研究は、磁性ナノ粒子における異方的な表面構造の変化が引き起こす新規物性の探索を目指すものである。具体的には、メソ多孔質構造体中に合成された粒子を、構造体ごと圧縮することで、粒子レベルおよび格子レベルでの異方的構造変化を誘起し、その時の磁性変化を構造変化と共に追跡調査することによって、表面構造に起因する磁気特性を究明することを目標とする。本研究は、これまでの合成中心の磁性ナノ粒子研究では特定が困難であった異方的な粒子収縮に関する実験的知見を与えるものであり、斬新な物質科学研究と言える。 平成23年度は、孔径8nmのナノ細孔中に合成された平均粒子サイズ11nmの反強磁性NiOナノ粒子の高圧力下磁気測定ならびに高圧力下構造解析を実施した。磁気凍結の起源となる活性化エネルギーの変化と格子定数の変化に関連性があることを明らかにした。特に低圧力下で起こる格子の一時的な膨張は想定外の結果であり、他の粒径の粒子ならびにバルク体の結果との比較が必要である。また、同じく、孔径8nmのナノ細孔中に合成された粒子サイズ8nmのマンガン酸化物LaMnO3について高圧力下磁気測定ならびに高圧力下構造解析を実施した。そこでは、磁気凍結温度の変化が格子定数ならびに粒子形状ひずみの変化と関連していることを明らかにした。この2つの研究は、粒子表面を介した磁気異方性の制御に成功した例として位置づけられる。また、NdFeBフェライトナノ粒子をエポキシ樹脂中で磁場配向させた試料に対して、配向方向にひずみを印加した場合とそれと垂直に印加した場合で磁気凍結温度の歪み効果に違いが現れることを見い出した。このように、圧力実験に磁場中配向技術を組み込むことで、通常は分散する結晶方位を意図的に揃え、意図的なナノ粒子の構造制御が可能になる。今後は、この方法を、異方的な構造を有する典型的なナノ粒子に適応していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始時の段階で、ナノ細孔中に合成された反強磁性NiOナノ粒子とマンガン酸化物LnMnO3の異方的歪み効果を調べることを目的としていた。NiOについては、孔径8nmのナノ細孔中に合成された平均粒子サイズ11nmの反強磁性NiOナノ粒子に対して高圧力下磁気測定ならびに高圧力下構造解析を実施し、磁気凍結温度の変化と格子定数の変化に関連性があることを明らかにした。低圧力下で起こる格子の一時的な膨張については、今後、他の粒径の粒子ならびにバルク体の結果との比較が必要となる。また、同じく、粒子サイズ8nmのマンガン酸化物LaMnO3(Ln=La)については、高圧力下磁気測定ならびに高圧力下構造解析を通じて調べた「異方的ひずみ効果」を学術論文として公表することができた。そこでは、磁気凍結温度の変化が格子定数ならびに粒子形状ひずみの変化と関連することを明らかにした。また、ナノ細孔を用いず、エポキシ樹脂中での磁場配向を利用した選択的ひずみ印加方法も開拓し、NdFeBフェライトナノ粒子に対して同方法を適用し、磁気凍結温度がひずみ印加方向によって変化することを実験的に見出した。以上の成果より、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
NiOは反強磁性体を母体とする物質であるが、ナノサイズにすることで反強磁性体に特有な2副格子構造が8副格子構造に変化することが理論的に指摘されている。実際、NiOナノ粒子では大きな磁気モーメントが発現する。今後は、表面に存在する原子の割合が物性変化に直結する、この興味深いNiOナノ粒子系に対し興味の対象を絞る。特に11nmサイズのNiOナノ粒子について観測した、低圧力下で起こる格子の一時的な膨張が、この物質のナノサイズ系に特有な現象であるのかを調査する。そのため、他の粒径の粒子ならびにバルク体の結果との比較を推進する。 また、エポキシ樹脂中での磁場配向を利用した選択的ひずみ印加方法についても、その効果が顕著に現れそうな物質を調査し、典型的な成功例を構築する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の具体的な研究計画は以下の通りである。まず、NiO反強磁性体については、粒子サイズが3nm, 15nm, 22nmのものに対してまず高圧力下構造解析実験を実施する。それに先立ち、バルク体の高圧力下構造解析実験を行う。その後、11nmサイズのものと異なる構造変化を示した粒子に対して、高圧力下磁気測定を実施する。また、エポキシ樹脂中での磁場配向を利用した選択的ひずみ印加方法に最適な磁性ナノ粒子を調査し、試料の調達を行い、予備実験を行う。 平成24年度の直接経費の所要額(約145万円)の内、約70万円を上記の実験のための寒剤購入費(液体ヘリウム代)に充てる。また、高圧力下構造解析実験において高圧力を発生させる際に必要となるダイヤモンドアンビルの購入に約30万円を計上する。そして、上記の研究の成果を公表するために、学会参加のための旅費(約25万円)と論文掲載費(約20万円)を計上する。 なお、平成24年度の直接経費の所要額には、平成23年度の未使用額(繰越額)である約35.5万円が含まれている。この繰越は、平成23年度の後半から起こり当面その状況は変わらないと言われている、国内での液体ヘリウム供給量の激減を原因とする液体ヘリウムの価格高騰を考慮してのことである。平成24年度の実験を計画的に進めるために、液体ヘリウム購入費の補充用に研究費の繰越を行う。
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