本研究は、ナノサイズの結晶粒子(ナノ結晶粒子)を等方的応力下におき、結晶粒子に収縮の仕方を任せるのではなく、ある特殊環境下でナノ結晶粒子に異方的ひずみを印加することによって粒子形状の変化および構造の変化を誘起させるものである。すなわち、異方的ひずみ環境下で、単位胞サイズレベルの異方的収縮を誘起し、それによって磁気特性を変化させ、新奇な物理現象を開拓しようとするものである。 異方的ひずみを実現する一方法として、ナノ結晶粒子をエポキシ系樹脂中で磁場中配向させ、結晶軸が配向した状態で一軸的なひずみを印加する手法がある。この手法はNdフェライト系ナノ粒子に対して適用されたが、ナノ粒子結晶の結晶外形を効果的に操作するものではなく、ひずみ印加方向を変えても際立った変化は見られなかった(Inter. Conf. Magnet. 2012にて発表済)。 そこで、メソ多孔質シリカというナノサイズ鋳型の中にナノ粒子結晶を成長させ、その鋳型ごと収縮させる手法を開拓した。シリカ中でサイズの異なるものを合成するだけでも、サイズ・形状を操作することになるが、これについてはDyMnO3ナノ結晶に対して研究成果を残した。さらに、同様の手法によって合成されたNiOナノ結晶に対して、外力を印加することで異方的なひずみを誘発し、単位胞収縮だけでは説明できない実験結果を観測した。その研究を通じて、あまりにも小さい変化のためこれまで観測されていなかった加圧による体積膨張現象を観測することができた。過去に、ナノ結晶粒子の研究において、サイズを変数にした実験研究はあったが、形状を連続的に変化させる系統的な実験研究はなく、ナノ結晶粒子研究の新たな側面を開拓したと言える。また、本研究で培った実験技術は銅酸化物超伝導体の単結晶試料の一軸圧縮実験に活かされた。
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