研究概要 |
アルキル以外の側鎖で修飾されたテトラセン分子の固体状態の光物性と分子配列の影響を調査するためにエステル基を持つテトラセン分子の合成を行った。2,6-ナフトジンの前駆体となる3,6-ビス(トリメチルシリル)ナフタレン-2,7-ビス(トリフラート)とアセチレンジカルボン酸エステルをアセトニトリル-ジクロロメタン中トリス(ジベンジリデン)ジパラジウム(0)触媒を用いて作用させることにより、最大16%の収率で1,2,3,4,7,8,9,10位にエステル基を有するテトラセンの合成に成功した。原料のエステル基のアルキル部位の長さがブチル基以上ではテトラセンの合成がうまくいかなかった。これは中間体として生じる五員環のパラダサイクルが立体障害のため生じにくいと考えられる。単離できたテトラセンオクタエステル体は溶液中ではほぼ同じ吸収および蛍光スペクトルを示した。一方固体状態において、メチルエステル体は赤色、エチルエステル体はオレンジ色、プロピルエステル体は黄色に呈色し、異なった吸収と蛍光スペクトルになった。この原因を解明するためにX線結晶構造解析を行った。エステル部位に様々な回転角度が見られ、またテトラセン部位の配列に着目するとどれも異なっていることがわかった。メチルエステル体のみにスタッキング方向に面間距離3.79Åのπ-オーバーラップが見られ、エチルとプロピルエステル体にはπ-オーバーラップがなかった。隣の分子とのcenter-to-center距離を調べるとメチルエステル<エチルエステル<プロピルエステルの順となり、アルキル部位の長いものほど分子間距離を拡げ分子間相互作用を弱める結果が示唆された。
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