平成25年度は主としてサイクレンをエチレンオキシド鎖によって架橋されたクリプタンド型の化合物(以下,クリプタンド)を系統的に合成し,それらの金属イオン錯体の構造,物性,機能について検討を行った. クリプタンドはジオキソサイクレンの1,7位を選択的に架橋したのち還元して合成した.得られたクリプタンドについて各種金属錯体を合成したところ,Cu(II)錯体の単結晶が得られた.メタノールを溶媒として用いて合成したCu(II)錯体のX線構造から,メタノール1分子を錯体中に取り込んでいることが明らかとなった.同様に,エタノールを溶媒として用いたら,エタノール1分子含む構造であることが分かったが,エタノール分子においてディスオーダーが激しかった. このクリプタンドのCu(II)錯体のコールドESIマスをメタノール中で測定したところ,分子内にメタノールを含むフラグメントイオンピークを与えた.同様の測定を,エタノールあるいは2-プロパノール中でおこなっても,エタノールや2-プロパノールを含むフラグメントイオンピークを与えなかったことから,クリプタンド/Cu(II)錯体はメタノール,エタノール,2-プロパノールの中で,メタノールを保持する能力が高いことをが示唆された.以上のことからクリプタンド/Cu(II)錯体はアルコールを見分ける能力があることを見出した. 一方,銀錯体はX線結晶に適する単結晶を得ることができなかったため,溶液中における「銀食い分子」としての性質を1H NMRとUVスペクトル滴定実験によって検討した.その結果,架橋部位のエチレンオキシド鎖を適当な長さにしてやると,Ag+-pi相互作用が増大することが明らかとなった.
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