研究課題/領域番号 |
23550165
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
水谷 義 同志社大学, 理工学部, 教授 (40229696)
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キーワード | 単分子膜 |
研究概要 |
シリケートガラス上に半導体性分子であるポルフィリンを化学吸着させて、単分子膜を形成させる方法について検討した。特に、生成した単分子膜の水中、酸性水溶液中での安定性を向上させることを目的として、今回、新しく1つの炭素に3つの水酸基を結合させたモチーフをポルフィリンに結合させた分子を2種類合成した。これらは、水酸基部分の構造として、C(CH2OH)3の構造をもつもの(トリスと略)、C(CH2CH2CH2OH)3という構造をもつもの(ビスホモトリスと略)である。これらを用いてシリケートガラス上にポルフィリン単分子膜を作成後、1 Mの塩酸中50℃で単分子膜の加水分解を行った。その結果、トリスは、通常の単純なOH基をもつポルフィリンに比べて、加水分解が速く進行するのに対して、ビスホモトリスは、加水分解の進行が遅く、両者では、安定性が大きく異なることが分かった。これは、OH基を束ねている炭素との距離が短いと、シリケートガラスと反応しないOH基が存在し、このような未反応のOH基はむしろ加水分解の触媒となり、安定性を損なうことになるが、OH基を束ねている炭素との距離が長い場合は、シリケートガラスとすべてのOH基が反応し、より安定な単分子膜になることを示している。このような知見は、今後の有機薄膜太陽電池や有機発光素子などの有機電子デバイスなどの界面の構築において、とくに、デバイスの安定性を向上させるときに役立つ発見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機―無機のハイブリッド材料の合成方法としてのケイ酸エステルによる共有結合生成反応の検討をおこなった。ポルフィリンにいろいろな構造をもつ一級アルコールを導入したものを新しく合成し、それらのポルフィリンによる単分子膜形成とその単分子膜の酸加水分解速度を測定した。これらの結果により、ビスホモトリス基を用いることで、加水分解に安定な有機単分子膜を形成させる方法を開発することができた。これによって、単分子膜の上にさらに化学反応などにより、別の有機物質や無機物質を積み上げることが可能になり、本手法がより一般的に材料化学などにおいて利用できるための基盤が形成できたものと考えている。 また、単分子膜のキャラクタリゼーションの方法として、AFM測定、X線反射率測定についても検討を行い、それぞれ、有用な方法であることを確認している。特に、AFM測定によって、単分子膜形成後の超音波処理では、一部の膜が欠損することが分かった。また、膜の密度を測定する方法として、アルカリ溶液による処理で、ポルフィリンを回収し、紫外可視吸収スペクトルによる定量によって、単分子膜の密度が測定でき、これを、単分子膜そのものの紫外可視吸収スペクトルによる定量と比較することも行い、両者の差異についても検討している。これらの手法を使って、これらからの研究を進めていくことができるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今回見出したビスホモトリス基を1つの有機分子に複数個導入するなどの方法を試み、より安定な単分子膜の形成を目指す。さらに、この手法を用いて、ポルフィリン分子の基板に対する配向性や単分子膜内での秩序性なども検討していく予定である。単分子膜のキャラクタリゼーション手法として、X線反射率測定や、薄膜のX線回折を利用することを考えている。また、アルコールとしては、現在1級アルコールのみであるが、2級、3級アルコールや、アルコール以外の官能基についても、同様の手法が適用できないかを検討していく。具体的には、アルキルハライドなどの官能基についての検討を行う予定であり、官能基の種類を拡大でき、それらの反応性が特異的であれば、より高度な界面合成化学の発展に寄与できると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究においては、さらなる有機合成が必要となるので、合成原料、有機溶媒、ガラス器具などに研究費を使用する計画である。
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