研究課題/領域番号 |
23550167
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
黒田 孝義 近畿大学, 理工学部, 教授 (80257964)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | スピンクロスオーバー錯体 / 鉄II)金属錯体 / シッフ塩基 / 水素結合 |
研究概要 |
本研究では、スピンクロスオーバー(SCO)現象を示す鉄(II)qsal系錯体に対して、種々の置換基導入などの化学修飾を行い、転移温度の高温化と共に、導電性や光スイッチング機能の発現を目指すものである。 これまでに、qsalのベンゼン環の代わりにナフタレン環を有するqnal系においては、急峻ではあるがヒステリシス幅が5Kと小さなSCOが200K付近で観測されていた。これに対して、カルボキシル基を有する鉄(II)qsalc錯体[Fe(qsal-5c)2]において21Kと大きなヒステリシスを有し、かつ急峻な転移を135Kで示すことを見出した。またその構造も粉末構造解析から明らかにし、水素結合により2量体を形成し、それが2次元的なネットワーク構造を形成していることを明らかにした。 他の置換基を有する系として水酸基を有するqsal-nOH系(置換位置によりn = 3,4,5がある)では、n = 5においても水素結合で連結されたポリマー構造が形成されていることを明らかにしたが、その磁性については明確な結論が得られておらず、次年度以降に持ち越している。また、フェナジン骨格をベースにしたS字型6座配位子からはN4O2配位環境を有する3核錯体が得られることを明らかにした。これは、配位子間の立体障害により配位子がねじれることにより目的の4核錯体とならず3核錯体となったもので、SCOとは異なる観点から興味がもたれる。立体障害のない別のS字型6座配位子については次年度以降の検討課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カルボキシル基を有する新規な錯体[Fe(qsal-5c)2]の系において、これまでにないヒステリシス幅を有する急峻なSCO現象を観測しており、これは研究の展開を図る上で有力な手がかりとなるものである。よって、本研究は概ね計画通り順調に推移していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度では未解明であった、qsal-nOH系の構造と磁性について明らかにするとともに、S字型配位子を用いた新規な4核錯体の合成を行い、その構造と磁性について、特に多段階のSCO転移挙動について明らかにする予定である。また、[Fe(qsal-5c)2]のように急峻でかつ広いヒステリシス幅を持つ系はこれまでに報告例は少なく、この系を用いて、ヒステリシス幅内での光照射によるスピン転移挙動についても研究を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
特に研究計画上の変更はなく、当初の予定通り、錯体合成及び測定に必要な試薬及び実験機材等の購入に7割を当て、残り3割を旅費及び人件費に用いる。
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