研究概要 |
本研究では、スピンクロスオーバー(SCO)現象を示す鉄(II)qsal系錯体に対して、種々の置換基導入などの化学修飾を行い、転移温度の高温化と共に、導電性や光スイッチング機能の発現を目指すものである。 23年度はカルボキシル基を有する鉄(II)qsal錯体[Fe(qsal-5c)2]において、水素結合による2次元的なネットワーク構造を形成しており、21Kと大きなヒステリシスを有し、かつ急峻な転移を135Kで示すことを見出した。24年度はその置換基の効果を明らかにするために、カルボキシル基の置換位置の異なるqsal-4cや、水酸基を有するqsal-nOH系(置換位置によりn = 3,4,5がある)において、構造と磁性を明らかにした。その結果、n = 5以外ではqsal-5cで見られたような2量体を形成する水素結合は形成されておらずSCO特性を示さないことが明らかとなった。また、n = 5においても、水素結合による1次元的な鎖状構造が確認できたが、SCO特性を示さないことがわかった。また、qsal-5c系における同位体効果も明らかにした。一方、フェナジン骨格をベースにしたS字型6座配位子から得られる3核錯体については、鉄以外にも、マンガンやコバルトの2価金属イオンでも類似の構造が得られることがわかった。これらの磁性の解析および、立体障害のない別のS字型6座配位子による鉄錯体については次年度以降の検討課題である。
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