研究課題/領域番号 |
23550170
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
山本 薫 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 助教 (90321603)
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研究分担者 |
近藤 隆祐 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (60302824)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 有機伝導体 / 分子性固体 / 強相関電子系 / 強誘電体 / 電子強誘電 / フラストレーション / 非線形光学 / ドメイン |
研究概要 |
ある種の有機伝導体は電子相関による電荷秩序転移によって強誘電的電気分極を発現する。新奇なこの強誘電性転移の機構理解と巨視分極に基づく機能開拓は興味深いテーマであるが,対象となる物質の残留伝導度は不可避的に大きく,分極反転や非線形誘電性の測定には困難が伴われる。こうした課題の解決を目指し,本研究では絶縁性の薄膜試料の作製を行いその誘電特性の評価を行う。薄膜化した試料の誘電特性を議論するには純粋なバルク試料の物性の把握が不可欠である。そのために平成23年度は,これまでに強誘電分極の発生を確認したα’-(BEDT-TTF)2IBr2を対象に,単結晶試料の誘電率測定を試みた。先行する研究においてこの塩を含む2つの強誘電性物質の低周波(1 kHz以下)誘電率を測定した結果,誘電特性は自発分極特性をしめさない電荷秩序物質と実質的に等価であった。本研究では,強誘電性分極と関連する異常物性に注目する立場から,周波数のより高い(マイクロ波)領域での特性を調べた。この物質の電荷秩序相は,反強誘電相(TAFE=206 K)から強誘電相(TFE=160 K)へと,基底状態の競合を示唆する変遷を示す。予備的測定の結果,反強誘電性転移点以下(T < TAFE)において,10 kHz以下で顕著な周波数分散をしめす大きな誘電率が観測された。この緩和的信号は温度低下に従って減少するが,強誘電性転移点であるTFEに特別なアノマリーを示さないことから,巨視分極とは関係しない,欠陥等への電荷蓄積に対応する誘電応答であると示唆される。その一方で,10 kHz以上の誘電率はTAFEからTFEにかけて平坦なプラトーを形成した。このような誘電性は強誘電体におけるドメイン構造のような大きさの一定しない巨視的構造がしめす特性と理解されており,反強誘電相において何らかのドメイン構造が発生していることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の主目的は薄膜化した試料の誘電物性測定にあるが,その評価のために必須な純粋な単結晶の物性測定が実験的に難しくかつデータの解釈が難解であるために時間を要しているため。
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今後の研究の推進方策 |
現在,誘電物性の専門研究者と連携して単結晶試料の誘電測定とデータの理解の経験を蓄積している。この経験をもとに,平成24年度は,自前の測定装置を構築し,真空蒸着試料や,高分子複合体薄膜試料を作製して,薄膜試料の誘電測定に着手する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究初年度の平成23年度よりα’-(BEDT-TTF)2IBr2塩単結晶の誘電率測定を開始した。誘電体研究の専門家と共同で行ったこの測定により,誘電体測定の実践的な基礎知識が習得できたので,これを元に平成24年度は,自らの研究場所に測定装置を構築する。本装置は,単結晶だけでなく薄膜形態の試料に対しても適用できるよう汎用性に配慮し,浮遊容量をさけつつ,十分な低温まで試料冷却が行えるように設計する。研究費の主要な部分は,この装置の冷却システムの構築とLCRメータ部品の購入に充当する。
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