人工レセプターによって味物質を検出する味覚センサーを効率的に構築するために、一つの方法論の開発を試みた。これは、レセプターの分子構造を幾つかのフラグメントに分割して合成後、それらのフラグメント分子をセンサー基盤上に固定することによって、最終的なレセプター構造を再構築するという方法である。対象とする味物質として、カフェイン(苦味)、グルタミン酸・アスパラギン酸(うま味)を設定した。 カフェインに対するレセプター分子としては、3環性の非環状ファン化合物が優れた分子認識能力を示した。これらは、他のメチルキサンチン類であるテオフィリンとも結合したが、その結合力はカフェインに比べ劣った。さらに、これらのメチルキサンチン類と同様にインドール骨格を有しながら、うま味を呈するアデニル酸、グアニル酸、イノシン酸に対しては、ほとんど複合体を形成しないことも明らかになった。これらの分子認識では、分子間の芳香環/芳香環相互作用よりも、CH/pi相互作用が重要であることが示唆された。 グルタミン酸等に対するレセプターとしては、芳香環から構成される配位子をもつスカンジウム化合物群が有効であった。これらの化合物は、中性アミノ酸を認識することは殆ど無いが、塩基性アミノ酸に対しては親和性を有することが明らかになった。 カフェインのためのレセプターについて、センサー基板へのフラグメント分子の固定と標的分子の検出について検討を行った。分子の固定化は進行したと考えられたが、そのシステムでは試料濃度と応答値の間に不整合な点がみられた。 センサー構築の方法論開発の一方で、本研究の根底にある最も重要な点の一つは、水中における有機分子の認識である。今回の標的化合物は、従来から認識が難しいと考えられてきたものであるが、本研究成果は分子認識化学的観点から今後の分子設計に新たな指針を与えることができるものとして期待される。
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