研究課題/領域番号 |
23550174
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
鎌田 賢司 独立行政法人産業技術総合研究所, ユビキタスエネルギー研究部門, 主任研究員 (90356816)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | π共役分子 / 二光子吸収 / 非線形吸収分光 / 電子励起状態 |
研究概要 |
本研究はπ共役系有機分子について、未探査である可視光短波長領域(400-580nm)において二光子吸収スペクトルの測定を行い、強い二光子吸収特性を持つ可能性を実験的に検証するとともに、その二光子吸収遷移が生じる理由を電子構造から明らかにすることが目的である。 このため本年度ではまず上記短波長可視光域二光子吸収測定系の構築とその検証を行った。既設のフェムト秒レーザー光源の波長変換を行い400nmおよび480~580nmでの二光子吸収測定が可能となった。二光子吸収断面積の較正については当初予定のパルス幅の直接測定に代わり、より容易に行うことが出来る標準物質を用いる方法に変更した。しかし480~540nmの領域では適切な標準物質が無いため、理論的に二光子吸収の波長依存性が知られているワイドバンドギャップ半導体であるGaNを用いて較正する手法を開発した。これにより、480~580nmの領域においても再現性の高い二光子吸収断面積の測定が可能になった。 この測定系を用いて分岐型フェニルエチニレン誘導体を測定したところ、400nmにおいて断面積20000GMに達する非常に強い二光子吸収を得た。従来、この波長での二光子吸収測定の結果はほとんどなく、また、比較的構造の簡単な分岐型フェニルエチニレン誘導体で従来よりも2桁近く大きな二光子吸収断面積が得られたことは短波長での三次元光ストレージ実現に向けて有用な結果であり、特許申請を行った。また、分岐型フェニルエチニレンと同様に短波長での強い二光子吸収が期待される環状オリゴフェニレン系化合物が入手可能となったため測定を行って540nmまでで数百GM台の比較的大きな二光子吸収断面積を得ており、より短波長での測定を進めている。加えて、これら化合物の励起状態に関する量子化学計算を進め、一部の遷移の帰属が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
可視光短波長領域(400-580nm)において二光子吸収スペクトルの測定を構築するととともに測定値の較正に必要な標準試料を見いだした。また、その測定系を用いて、予定していた分岐型フェニルエチニレン誘導体について、波長400nmにおいて非常に大きな二光子吸収断面積を有する事を明らかにした。他の波長域についての測定が遅れているが、予定外の新規な化合物系として環状オリゴフェニレン系化合物の評価も進めており、全体としては、ほぼ計画に沿った進捗である。
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今後の研究の推進方策 |
分岐型フェニルエチニレン誘導体および環状オリゴフェニレン系化合物について、未測定の波長域の測定を進めて、量子化学計算との対比による帰属を進める。また、その二光子吸収誘起の反応性の確認を進める。特に応用への展開を意識して、既存の固体レーザーだけでなく、より実用化の条件に近い半導体レーザーによる二光子誘起反応の検証を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は二光子吸収断面積の較正手法を変更したことと、波長変換に既存の光学素子が一部使えたことなどにより、次年度への繰り越しを行った。次年度においては当初予定の試薬類、基板類や情報収集と成果発表のための旅費に加えて、繰り越し分を用いて、より実用化の条件に近い条件での二光子誘起反応の検証のための高出力405nm半導体レーザーモジュールと電源等関連機器を導入する。
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