研究課題/領域番号 |
23550174
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
鎌田 賢司 独立行政法人産業技術総合研究所, ユビキタスエネルギー研究部門, 上級主任研究員 (90356816)
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キーワード | π共役分子 / 二光子吸収 / 非線形吸収分光 / 電子励起状態 |
研究概要 |
本研究はπ共役系有機分子について、未探査である可視光短波長領域(400-580nm)において二光子吸収スペクトルの測定を行い、 強い二光子吸収特性を持つ可能性を実験的に検証するとともに、その二光子吸収遷移が生じる理由を電子構造から明らかにすることが 目的である。 これまで分岐型フェニルエチニレン誘導体が400nmにおいて二光子吸収断面積20,000GMに達する非常に強い二光子吸収を示すことを見い出しており、この結果は短波長での三次元光ストレージ実現に向けて有用であると期待できる(特許出願中)。この強い二光子吸収が生じる原因を明らかにするには可視光短波長域での二光子吸収スペクトル測定が必要であり、そのため同波長域における測定手法も開発して来ている。 今年度はこの測定系を用いた分岐型フェニルエチニレン誘導体の480nmまでの二光子吸収スペクトルの測定を進めると共に、その誘導体についての高精度の量子化学計算を行った。測定結果より、二光子吸収断面積は波長が短くなるに従い次第に増加して400nmの結果に近づく傾向を示し、計算結果からは二光子吸収が強いと期待される高い対称性を持つ励起状態が短波長域に存在することが示された。また、分岐鎖数の異なる化合物についても測定を行った結果、分岐鎖数増えるにつれて二光子吸収断面積が非線形的に著しく増大した。これらの結果は短波長に存在する対称性の高い励起状態が強い二光子吸収に重要であるとの仮説を支持する。また既測定の環状オリゴフェニレン系化合物を発展させたナノケージ化合物の二光子吸収スペクトル測定も行い、平面的な環構造を取る方がより強い二光子吸収を生じることを明らかにした。さらに特定の環状オリゴフェニレン系化合物では溶液中および固体膜で二光子誘起反応が生じることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分岐型フェニルエチニレン誘導体については計画通り波長480nmまでの二光子吸収スペクトル測定と、対応する高精度の量子化学計算を行った。また、分岐鎖数の異なる一連の化合物間についても測定を行い、分岐鎖に対する依存性を明らかにした。 また環状オリゴフェニレン系化合物を発展させたナノケージ化合物の二光子吸収の評価も行い、さらに特定の環状オリゴフェニレン系化合物では溶液中および固体膜で二光子誘起反応が生じることを確認した。 半導体レーザーによる二光子誘起反応の検証は遅れているが、当初計画に無かった環状オリゴフェニレン系の評価も行い、全体的としてほぼ計画に沿った進捗である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで測定ができていなかった400~480nm間の波長について、レーザー光源の改良により測定できる目処がついたため、これらの波長域で分岐型フェニルエチニレン誘導体および環状オリゴフェニレン系化合物の測定を行う。これにより、400nmまでの二光子吸収スペクトルの全体像を捉えることができ、量子化学計算との対比による帰属を進めることができる。また、フェムト秒レーザー励起だけでなく、実用上重要なナノ秒レーザー光励起での二光子吸収誘起反応の確認を進め、最終的に半導体レーザーによる反応の検証を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度未導入であった高出力405nm半導体レーザーを導入して、それを用いたより実用に近い条件での二光子誘起反応の検討を進める。また、試料調製、測定のための試薬、基板類に加え、情報収集と成果発表のための旅費および学会参加費への支出も行う。
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