研究課題
研究期間全体として当初に掲げた目的は、「セルロース誘導体の水系での溶解、相分離、ゲル化等の基礎物性を明らかにし、相分離やゲル化温度をコントロールすること」である。セルロース誘導体の一つであるメチルセルロース(MC)の水溶液は、加熱することにより、ゲル化や相分離(白濁)などの部臨界完溶(LCST)型の挙動を示す。得られた成果のうち、最終年度までに以下のことを明らかにした。①単純な無機塩である食塩(NaCl)をMC水溶液に添加することでLCST点を20℃程度低下させることができる(塩析効果)。②テトラフェニルホウ酸ナトリウム(NaBPh4)やスチレンスルホン酸ナトリウム(SSNa)などのアニオン側が有機基である塩は、LCST点を20~50℃程度上昇させることができた(塩溶効果)。③これに対して、塩化テトラアンモニウム(TEACl)などのカチオン側が有機基である塩は、LCST点を10~20℃程度低下させた(塩析効果)。④MC水溶液にとって従来安定一相(透明)領域と考えられてきた室温(20℃付近)においては、白濁や沈殿など巨視的変化は見られないものの、微視的スケールで凝集をおこしていることを動的光散乱実験により明らかとした。最終年度には、MCと類似の骨格を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、および、キトサンの水溶液に調査範囲を広めて相分離とゲル化の挙動を調べた。成果は以下のとおりである。⑤HPMC水溶液の場合、置換度が同じであっても置換位置分布が異なることで相分離やゲル化温度が異なることを明らかにした。⑥キトサンは、MCと共通の糖鎖骨格を有しているが、その水溶液はMCと逆の上部臨界完溶(UCST)型の挙動を示した。また、キトサンの溶解挙動は添加塩濃度に対して大変敏感で臨界イオン強度が存在することを日英の共同研究により明らかにした。
共同研究者(オックスフォード大学Barbara Gabrys博士)による研究成果情報発信
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Sen'i Gakkaishi (J. Soc. Fiber Sci. Technol., Jpn)
巻: 70 ページ: 225-231
http://www.researchgate.net/publication/269687235_Critical_Dissolution_Ionic_Strength_of_Aqueous_Solution_of_Chitosan_Hydrochloride_Salt