研究課題/領域番号 |
23550186
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松井 敏高 東北大学, 多元物質科学研究所, 講師 (90323120)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ヘム代謝 / 反応機構 / 酸素活性化 / ベルドヘム |
研究概要 |
ヒト由来の誘導型および構成型全長ヘムオキシゲナーゼ(HO-1およびHO-2)に関して、種々の発現系を構築した。両酵素とも大腸菌中で十分量が発現し、これらの可溶化にも成功した。全長HO-1については精製条件も検討し、比較的高純度の全長酵素を得ることにも成功した。界面活性剤で可溶化した全長HO-1はヘムを強く結合し、その分光学的性質は可溶性HO1-ヘム複合体のものとほぼ同等であった。さらに全長HO-1は可溶性HO-1とほぼ同等のヘム分解活性を示した。これらの結果は、全長および可溶性酵素の活性中心構造に大きな違いがないことを示している。また、ヒト由来の全長膜結合型還元酵素(CPR)の発現系の構築を終えている。今後、全長HO-2とともに、発現・精製条件などの最適化を進め、HO-CPR複合体の調製を試みる。新規ヘム代謝反応については、種々の細胞株を用いた予備的な検討を行い、微量の新規代謝産物の検出に成功した。また、HPLCによる検出法の改良も行い、迅速かつ再現性の良い検出を可能にした。また今年度は、結核菌由来のIsdG型ヘム分解酵素(MhuD)の反応解析にも着手した。MhuDの構造はHOとは全く異なるが、HO同様、酸素添加反応によってヘムを分解可能なことを見いだした。しかし、ヘム代謝産物の構造はIsdGを含む他のヘム分解酵素のものとは全く異なっており、特にポルフィリン環が開裂しているにも関わらずCOが遊離していない点は驚くべき発見であった。この結果はMhuDによるヘム分解はベルドヘム中間体を経由しないことを示しており、既知のヘム分解反応機構とは大きく異なることが明確である。MhuD反応機構の解明は酵素学的に興味深いだけでなく、新たな抗菌剤の開発にも繋がると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は東日本大震災により研究設備が大きなダメージを受けたために、研究の進行(特に全長酵素の調製条件探索)は予定よりも遅れざるを得なかった。しかし現在までに培養・精製設備などはほぼ復旧し、質量分析器などの大型解析機器(所属研究所の共通機器)についても修理・更新が終了した。次年度以降は遅滞なく研究が進行できる予定である。また、結核菌酵素の反応研究では予想を超える進展があり、次年度以降の研究の主要な柱になり得る。
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今後の研究の推進方策 |
まず、全長CPRの発現条件を検討し、還元活性・フラビン含量などを指標として、可溶化・精製条件を最適化する。全長HO-2に関しても、発現・精製条件を最適化し、充分量の高純度酵素の調製法を確立する。得られた全長CPRと全長HOを用いた反応を行い、ヘム分解活性のCPR濃度依存性から両酵素間の親和性を評価する。親和性の高い条件において、HO-CPR複合体をゲルろ過クロマトグラフィーなどで精製し、その単離を試みる。充分量かつ高純度の複合体については、スクリーニングキットなどを用いて結晶化を試みる。良質な複合体が得られない場合、界面活性剤の探索(ナノディスクを含む)や、HOとCPRの膜アンカー部位を連結した発現系を作成し、複合酵素の発現・精製を試みる。新規ヘム代謝反応については動物細胞での進行を証明する。反応条件や反応時間を最適化し、検出量の向上を目指す。さらに、新反応による活性変化とO2濃度依存性を細胞レベルで測定し、より生体に近い反応系での新規ヘム代謝反応の影響を明らかにする。結核菌MhuDに関しては反応生成物の大量調製を試み、NMRなどによる構造決定を試みる。また、黄色ブドウ球菌由来のIsdGについても反応解析に着手し、CO発生の有無を検討した上で、両者の反応機構の解明を試みる。特に機構変化の鍵となる、ベルドヘム中間体の構造と反応性中心に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、当初計画していた全長酵素の調製実験の一部を次年度に延期することによって生じたものであり、延期した調製実験に必要な経費として平成24年度請求額とあわせて使用する予定である。
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