研究課題/領域番号 |
23550186
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松井 敏高 東北大学, 多元物質科学研究所, 講師 (90323120)
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キーワード | ヘム代謝 / 酸素活性化 / 反応機構 / 結核菌 / 黄色ブドウ球菌 / 一酸化炭素 |
研究概要 |
本年度は主に1)動物細胞における従来型ヘム分解酵素(HO)の新規ヘム代謝反応と、2)新規IsdG型ヘム分解酵素の反応機構について検討した。 1)前年度までに動物細胞から新規ヘム代謝産物を効率的に検出する手法を開発していた。今年度はRAW264.7(マウス由来)やHeLa、HepG2(いずれもヒト由来)などの細胞株での反応を行い、これら全ての細胞から新規ヘム代謝産物の検出に成功した。この結果は動物細胞でも普遍的に新HO反応が進行することを示している。また、今回用いた細胞株での新規生成物は微量であったが、その生成量は細胞種に大きく依存し、多量の新規生成物を与える細胞や組織が存在する可能性も示唆された。 2)前年までに結核菌由来のIsdG型ヘム分解酵素(MhuD)は特殊なヘム代謝産物(マイコビリン)を与えることを示していた。今年度はまずマイコビリンの構造決定を試みた。MhuD反応を高濃度かつ大容量で行うシステムを構築し、生成物の効率的な抽出・精製法を確立した。得られたマイコビリン(2種の異性体)の構造をNMRなどの測定により決定したところ、マイコビリン開環部の炭素がアルデヒド基として保持されていることが示された。この構造はMhuD反応でCOが生成しない結果をよく説明し、「歪んだヘムが酸素架橋型中間体を形成し、ラジカル的にポルフィリン環が開裂する」、全く新たな反応機構が提案された。この機構に基づき、MhuD同様に歪んだヘムを持つ黄色ブドウ球菌のIsdGについても反応を検討した。その結果、従来の常識とは異なり、IsdGもCOを放出せずにヘムを分解していることが明らかとなった。これらの結果はヘムの歪みによる反応制御という点で興味深いだけでなく、ある種の細菌群がHO型ではなく、IsdG型のヘム分解酵素を有している生物学的な理由を解き明かす鍵となり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HO新反応に関しては動物細胞からの新規生成物の検出にも成功し、順調に計画を達成している。全長酵素の研究は難航しているが、それを補ってあまりある進展をが見せたのはIsdG型酵素に関する研究である。IsdG型酵素の生成物解析は従来の常識を覆す重大な発見に繋がり、学会等でも高い評価を受けている。このため、次年度の主要課題はIsdG型酵素の機構解明とする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は主にIsdG型酵素の反応機構について検討する。黄色ブドウ球菌由来のIsdGに関しては、MhuDと同様にCOが発生しないことを見いだしたが、ヘム開裂に伴って遊離する炭素数1(C1)の生成物が遊離していることは明らかである。このC1生成物を決定するために、まずは可能性が高いホルムアルデヒドおよびギ酸の生成量を定法に従って決定する。これらの生成物が主生成物でない場合、二酸化炭素などの可能性を検討する。これらの生成物情報から、可能性のある反応機構を推測する。 次に、IsdG型酵素の鍵中間体と考えられるヒドロキシヘム複合体の反応を検討する。ヒドロキシヘム複合体の調製は、嫌気条件での過酸化水素反応、または化学合成したヒドロキシヘムとIsdG型酵素の再構成により調製する。この複合体と酸素の反応を検討し、その生成物を決定する。反応の追跡はまず吸収スペクトルの測定により行い、観測される中間体の予想構造に応じて他の分光測定・質量分析などを組み合わせて、同定を試みる。特に注目すべきは、1)HOで見られるベルドヘム中間体が生成しないことと、2)酸素との反応のみでポルフィリン環が開裂するか、の2点である。これらの反応情報を元に作業仮説を検証し、IsdG型酵素の機構解明を目指す。 動物細胞における新HO反応については、新反応による活性変化とO2濃度依存性を細胞レベルで測定する。これらは精製酵素系で大きな変化を見いだしており、より生体に近い反応系でも同様の効果が見られるか検証し、生理機能に与える影響を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、当初計画していた実験の一部を次年度に延期することによって生じたものであり、延期した調製実験に必要な経費として平成25年度請求額とあわせて使用する予定である。
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