本年度は、灰色かび病に有効であるフルジオキソニルミュータントの合成を行った。また、初年度、合成を断念したアセタミプリドミュータントの合成に成功した。さらに、得られた三つのミュータントに関してESR測定を行い、農薬の種類によってスピンラベル部位が影響を受けないという知見を得た。―フルジオキソニルミュータントの合成―市販のフルジオキソニル水和剤からアセトンを用いて抽出し、フルジオキソニルを得た。フルジオキソニルのピロール部位にクリック反応の足掛かりとなるプロパルギル基の導入を行い97%収率で目的化合物を合成した。続いてクリック反応を用いて、すでに合成しておいたアジド基を有するスピンラベル部位と反応させ、スピンラベル部位を持ったフルジオキソニルミュータントを16%収率で得た。―アセタミプリドミュータントの合成―前年度、プロパルギル基の導入がうまくいかず合成をあきらめていたアセタミプリドミュータントの合成をフルジオキソニルミュータントを合成する手法を用いて再検討した。2-クロロ-5-クロロメチルピリジンにアミノ基を導入し、その後、シアノイミド部位を導入した。次に、セシウムを触媒として、臭化プロパルギルと反応させ、アセチレン部位を持ったアセタミプリド誘導体を合成した。続いてクリック反応を用いて、スピンラベル部位を導入し、収率86%でアセタミプリドミュータントを得た。―農薬ミュータントのESR測定―合成した三つの農薬ミュータント(アセタミプリド、イミダクロプリド、フルジオキソニル)についてESR測定を行った。比較対象物として、クリック反応させる前のスピンラベル部位を用いた。4つの測定結果を比較したところ、超微細結合定数ならびにg値に大きな変化は見られず、農薬部位によってスピンラベル部位は影響を受けないことが明らかとなった。
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