研究課題/領域番号 |
23550188
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
大友 征宇 茨城大学, 理学部, 教授 (10213612)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 生体機能 / 生体分子認識 / 光捕集複合体 / 光合成 |
研究概要 |
本研究では、光合成初期過程を司る光捕集光電変換色素膜タンパク質LH1-RCとLH2複合体を対象に、そこで起きている色素膜タンパク質と金属イオン間の特異的な分子認識現象を取り上げ、その高度な分子認識機構を原子レベルで解明することを目的とする。これらの分子認識機構と生理機能の制御及び立体構造との相関情報に基づいて、生体超分子による高効率のアンテナ素子の構築を目指している。 本年度は当初の実施計画に沿って、金属イオンを除去した好熱性光合成細菌Tch. tepidum由来のLH1複合体に、Ca2+と同族のMg2+、Sr2+、Ba2+を添加し、近赤外領域における吸収極大の変化を測定した。同様な実験をCa2+と同じイオン半径をCd2+と、荷電数は異なるがほぼ同じイオン半径をもつDy3+についても行った。これらの金属イオンの置換によって得られたLH1複合体の近赤外吸収極大はいずれもCa2+のものに比べ、約20nmブルーシフトした。この結果はLH1複合体が高度な分子認識能をもち、Ca2+と他の金属イオンを厳密に区別できることを強く支持している。次にCa2+の代わりにこれらの金属塩を用いて菌体を培養したところSr2+の場合のみ培養可能であることがわかった。さらに、Sr2+培養で得られたLH1タンパク質を調べた結果、一部のポリペプチドが修飾を受けていたことを判明した。一方、LH2複合体についてはこれまで正体不明な成分が実は修飾されたタンパク質であることを突き止めた。これらの成果の一部はすでに学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
未曾有の大震災直後から、生活と研究の面において極めて困難な状況下にもかかわらず、いち早く生体試料の救出と実験設備の復旧に取り組んだ。このお陰で、その後本研究課題をスムーズに開始させ、遅滞なく遂行することができた。期間中、建物立ち入り制限などの大きな制約があった中でも研究活動を続け、光合成生物の光捕集反応中心タンパク質超分子複合体の単離精製及び特性評価の研究を大きく前進させてきた。その成果を速やかに学会発表と国際学術論文誌を通して社会に発信することができた。従って、当初の研究実施計画に照らし、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記述べた金属イオンによって誘起される光合成光捕集複合体の機能変化と並行して、そのメカニズムを司る構造基盤の解明にも力を入れる予定である。具体的には、これまで既に行われてきた光捕集反応中心タンパク質超分子複合体の結晶化条件について、沈殿剤、界面活性剤、緩衝液、金属塩及びpHと温度などさらに幅広いスクリーニングを中心に行い、高分解能の回折を与える結晶の作成を目指す。本年度当初計上した物品費はおおよそ予定額を消化したが、震災後の実験環境復旧と整備を優先したため、当初計画した調査打合せや実験測定用の旅費に余剰額が出た。また、レンタルラボの使用料に計上した経費については、新たな共同使用者が加わったため実質の支出が大幅に減った。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の未使用額と合わせて、次年度は主に消耗品の購入に充てる予定である。具体的には通常の試薬以外に、膜タンパク質の可溶化や色素タンパク質超分子複合体の結晶化条件をスクリーニングするための界面活性剤を購入する予定である。また構造解析に必要なワークステーションを購入する予定である。旅費として学会での成果発表や研究打合せの費用が計上されている。
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