研究課題/領域番号 |
23550188
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
大友 征宇 茨城大学, 理学部, 教授 (10213612)
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キーワード | 生体機能 / 生体分子認識 / 光捕集複合体 / 光合成 |
研究概要 |
本研究では、光合成初期過程を司る光捕集光電変換色素膜タンパク質LH1-RC、LH1とLH2複合体を対象に、そこで起きている色素膜タンパク質と金属イオン間の特異的な分子認識現象を取り上げ、その高度な分子認識機構を原子レベルで解明することを目的とする。これらの分子認識機構と生理機能の制御及び立体構造との相関情報に基づいて、生体超分子による高効率のアンテナ素子の構築を目指している。 本年度はほぼ当初の実施計画に沿って、高感度の微量熱量分析装置を用いてタンパク質と金属イオン間の相互作用の検出を行った。示差走査マイクロカロリメトリー(DSC)法を用いたLH1複合体の熱安定性評価において、これまでの実験結果から、好熱性光合成細菌Tch. tepidum由来のLH1-RCはLH1単体よりも安定性が高いと予測されていたが、本実験ではLH1単体の方が安定であった。これは膜タンパク質の安定性がその可溶化剤との相互作用に大きく依存することを示している。今回の結果から、DSCを用いた膜タンパク質と可溶化剤の相互作用解析の有効性を見出した。 一方、等温滴定マイクロカロリメトリー(ITC)測定によってタンパク質と金属イオンの結合に伴う鋭い負の発熱信号が検出され、LH1複合体中の色素バクテリオクロロフィルaにおける金属イオン結合の様子を熱力学的に観測可能であることを判明した。同じ測定条件下では、信号強度はBa2+>Ca2+>Sr2+の順に強かった。従って、これらの信号強度の差は結合に伴う発熱量を反映していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
未曾有の大震災による研究の遅れを取り戻すとともに、新たに大学連携研究設備ネットワークを通して分子科学研究所にある高感度の微量熱量分析装置による測定に取り組んだ。これにより、本研究の主要項目である光捕集タンパク質と金属イオンとの相互作用を定量的に評価する実験を大きく前進させることができた。これまでの成果を速やかに学会発表と国際学術論文誌を通して社会に発信することができた。従って、当初の研究実施計画に照らし、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記述べた微量熱量分析による光捕集タンパク質と金属イオンとの相互作用の定量評価と並行して、そのメカニズムを司る構造基盤の解明に取り組む予定である。具体的には、これまで既に行われてきた光捕集反応中心タンパク質超分子複合体の結晶化条件を最適化し、高分解能の回折を与える結晶の作成を目指す。本年度当初計上した物品費はおおよそ予定額を消化したが、震災後の実験環境復旧と整備を優先したため、当初計画した調査打合せや実験測定用の旅費に余剰額が出た。また、レンタルラボの使用料に計上した経費については、新たな共同使用者が加わったため実質の支出が大幅に減った。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の未使用額と合わせて、次年度は主に消耗品の購入に充てる予定である。具体的には通常の試薬以外に、膜タンパク質の可溶化や色素タンパク質超分子複合体の結晶化条件をスクリーニングするための界面活性剤を購入する予定である。また構造解析に必要なワークステーションを購入する予定である。旅費として学会での成果発表や研究打合せの費用が計上されている。
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