研究課題/領域番号 |
23550189
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
白木 賢太郎 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (90334797)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | タンパク質 / 凝集 / 添加剤 / フォールディング |
研究概要 |
荷電相補性のある高分子アディティブをデザインし、タンパク質を安定な、すなわち凝集をおこさない複合体を形成させることを目的として研究を進めた。正電荷を持つポリマーであるpoly(N,N-diethylaminoethyl methacrylate)-block-poly(ethylene glycol) (PEAMA-b-PEG)を用いると、βガラクトシターゼやαアミラーゼと安定で凝集しない複合体を形成することがわかった。この状態では酵素機能がない状態だった。さらに負電荷を持つポリマーであるポリアクリル酸(PAAc)を使うと、PEAMA-b-PEGを解離させることにも成功した。すなわちPEAMA-b-PEGとPAAcを使うことで酵素機能スイッチングが実現した。この結果はLangmuir誌に投稿し記載された。 さらに、タンパク質凝集に関する溶媒環境の影響を調べるために、タンパク質のメタノール溶媒中での構造変化および凝集と溶解度を調べた。エタノール中でウシ血清アルブミンやリゾチームの凝集と構造変化を円偏光二色性スペクトルによって調べたところ、50%以上になるとαヘリックス構造へと転移し、溶解度も単調に減少した。しかし興味深いことにSH基を修飾したアンフォールド型のバリアントの溶解度も、エタノール濃度を増加させるにつれて減少した。この結果はたんに溶媒が疎水性相互作用を弱めることで凝集をふせぐのではないということを意味しており、アディティブのデザインの指針になると考える。以上の結果はInt. J. Biol. Macromol. 誌に2本の論文として投稿し記載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質凝集や失活の抑制を高分子アディティブに持って行くという点において、おおむね研究は順調に進展した。つまり、(1)モデルタンパク質によって検証した相補性ポリマー系を用いるタンパク質凝集の抑制が、糖質関連酵素や脂質関連酵素等の産業タンパク質に既に展開できたこと、(2)実際に分子アディティブとタンパク質の複合体の構造や安定性を円偏光二色性や動的光散乱法などの手法によって明らかにできたことがある。このような準備のもと、(3)その方法を用いることで、これまでに実現しなかった不安定なタンパク質をターゲットにした酵素機能スイッチが実現した。以上により、当初の研究の達成度どおりに進捗していると考えていい。
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今後の研究の推進方策 |
まずLangmuir誌に既に報告した成果に関する高分子アディティブとタンパク質の複合体の構造を分光学的に明らかにすることを目的とする。当初の予定ではモデルタンパク質系のみを想定していたが、予想より研究が進んでいるため、本年度ではポリマーを利用する高活性化にまで研究を進めていく可能性が高い。本年度までに明らかにした結果によると、タンパク質は高分子と複合体を形成し、その結果、酵素活性の機能が低下する。しかし逆に、基質と高分子アディティブとの親和性が高ければ、酵素活性がさらに増加する可能性があると考えるからである。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は主にタンパク質や試薬や容器などの消耗品に使用する。一部は国内の学会発表と論文投稿の費用に使用する。
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