本研究課題においては,分子間相互作用に基づく論理演算システムの開発を目指し,生体高分子化合物を構成要素とする分子システム構築の可能性を探っている.研究開始初年度から一貫して,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)において,入力信号として2種類のプライマーDNA添加を,出力信号として増幅反応産物DNAの生成を用いて,両者の関連性をバリエーション展開してきた.研究初期段階においてAND,OR,NOTといった基本的な論理演算パターンの構成に成功し,その成果を踏まえて,万能演算ゲートとも呼ばれるNAND型演算に実現に取り組んできた.ここでは,入力信号がゼロの際にデフォルトでDNA増幅反応が進行するが,2種類の入力が揃った場合に限ってこの進行が止まる仕組みの実現が必要となった.このような仕組みを実現するために,テンプレートDNAがコードする翻訳領域は同一配列だが,その前後に配置されるプライマーDNA会合配列の異なる2種類のテンプレートDNA分子を等分子数共存させる構成を導入した.この構成は成功したが,反応特異性と増幅効率に不十分な点が認められたため,この問題点を解決するためにプライマーDNAの会合領域配列を設定しなおすことが研究課題全体として必要となった.これは研究開始時点にさかのぼる条件検討やり直しを含む課題となり,計画よりも長期間の検討が必要となった.新たにテンプレートDNAおよびプライマーDNAを設計しなおし,PCRを行った際の反応特異性と増幅効率について,重点的に検討を加えた.
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