研究課題/領域番号 |
23550203
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
帯刀 陽子 山形大学, 理工学研究科, 助教 (30435763)
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研究分担者 |
岡田 修司 山形大学, 理工学研究科, 教授 (30250848)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ナノワイヤ / 物性化学 |
研究概要 |
申請者がこれまでに行ってきた、分子設計・有機合成を基盤とした配向性を有する導電性ナノワイヤの研究は一定の成果をあげている。しかし、これまでの研究で得られたナノワイヤは、基板構造が配向性の発現に大きく影響するため、マイカ基板を用いることが必須であり、さらにその電気伝導度は半導体程度であることなどの問題点を有していた。そこで、本研究では導電性分子の両端の相互作用を制御したり、重合することで1次元構造を形成する分子を付与し、自己組織能を利用することで直線状や螺旋状のナノワイヤ構造の作製を目指すこととした。 特異な機能を発現する原子・分子操作および構造の階層化は、ナノテクノロジーにおけるボトムアップアプローチとして多くの研究がなされている。本提案では、「集合状態で導電性を有する分子群をコイル状形態に自己組織化」させ、「電子と磁気との相関を明らかにすることで新規ナノデバイスの構築」を目指した。申請者がこれまでに研究してきた高導電性分子の設計および基板界面制御法を発展させ、コイルピッチ10 nm程度の導電性ナノコイルの創成に挑戦した。 有機導電性分子からなる分子性ナノコイルの構築これまでに行ってきた分子集合体ナノワイヤに関する知見から、分子性導体に「かさ高いキラル分子」と「水素結合部位」を導入することで、非対称な側鎖を付与した分子を合成した。分子の両端に異なる相互作用を有する部位を導入することで、螺旋構造を形成すると考えられる。更に、アクセプターと組み合わせることで、分子1個が変化し、コイル全体が伸縮するアクチュエーターとしても利用可能であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに分子性導体に関する報告は、国内外問わず活発に行われているが、単結晶試料についての構造-物性研究が殆どであり、ナノワイヤ、ナノコイルなどの材料化やデバイス応用を見据えた研究例は、ELやFETへの応用研究を除けば皆無に等しい。そのため、ナノマテリアルの作製時間が掛かったが、現段階では数種類作製できていることから、目標はおおむね達成している。 1次元構造の作製に「ドナー・アクセプター間の強いスタック」を、螺旋構造の作製に「水素結合+キラル分子のスタック」を用いることで、ナノコイルを固定化できると予想される。このような分子を合成したところ、結果として伝導性の向上が見られたが、未だ伝導度が低いため、改良する必要があると考えられる。 これまでの研究で行なわれている1次元ナノワイヤ構造の電気物性評価の殆どはバルクで行なっており、導電性AFMを用いてナノワイヤ1本の電気伝導度を評価している例は数少ない。導電性AFMを用いてナノワイヤやナノコイルの伝導度を測定し、コイルに電気を流すことで局所磁場発生の有無を確認する点で斬新であり、意義のある研究であると考えれられる。現在は実測まで至っていないが、マテリアルは作製できていることから、すぐに電導度測定にうつることができることから、目標は概ね達成できていると考えれられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに様々なナノワイヤ構造が報告されているが、その殆どの物性は伝導特性であった。しかし、本研究ではナノワイヤとナノコイルを作製することで、電気のみならず磁気特性も有するナノ構造を作製・評価可能とする点が意義のある研究であると言える。今後は、このような点を中心に研究を進めて行こうを考えている。 具体的には、 微小電極と導電性AFM(PCI-AFM)を用いて、分子性ナノコイルの電気物性評価を行なう。微小電極基板上にテンプレートを作製し、螺旋構造を有するナノワイヤを作製した後、電気物性評価を行う。電気伝導度は2端子法もしくは4端子法を用いて行い、温度を変化させながら極低温まで測定し (~300 mK)、温度依存性から導電挙動の機序を探る。分子性ナノコイル1本の評価には導電性AFMを用いる。AFM測定により構造を明確にしたナノワイヤに導電性のAFM探針を接触させ、電気伝導度の測定を行う。基板表面の吸着水の影響を防ぐために、真空下での測定についての検討を行い、また室温から液体窒素までの領域で測定を試みる。螺旋構造の始点には金電極と終点部分に探針を接触させ、電気伝導度を測定する。インピーダンス測定によりコイルとしての性能も評価する。更に、直線構造と螺旋構造の電気伝導度を比較し、導電性ナノワイヤの伝導度形状依存性について明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
極低温冷凍機、温度コントローラーは、作成したナノワイヤ、ナノコイルの電気物性評価に必要な物品である。1次元ナノワイヤは1分子層で形成され、流れる電流量も小さいため、高電圧を印加し且つ極低温での測定することが必要条件となる。現在、有している電気伝導度測定装置は、室温~液体窒素温度までの測定が可能であるが、電気物性のナノサイズ効果を観測するためには、低温条件での測定が必須となる。そのため、極低温冷凍機を購入するという計画は妥当性を有している。また、その際に、温度制御を行うため、温度コントローラは必要な物品である。今年度は、ナノマテリアルが作製できたことから、来年度は上記装置類を購入しようと考えている。 試薬に関しては、原料の合成や自己組織化により1次元構造を作製するのに使用するもので、必要な経費であることから、来年度も計上している。様々な分子を合成する予定であることから、試薬は多量に必要であると考える。旅費に関しては、本研究を遂行する上で、さまざまな知識や助言を得ることができる学会に出席するための経費である。
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