研究課題
酸化グラフェン(GO)を化学的手法により還元して得られる化学変換グラフェン(CCG)は、大量合成が容易であり、かつ溶液プロセスでの取り扱いが可能である。本章では、GOをヒドラジンにより還元し、ジアゾニウム塩を用いたアリール付加反応を行うことで、ヨードフェニル基が連結したグラフェン(CCG-PhI)を得た。その後、ボリル基を有するポルフィリンとのSuzukiカップリング反応によりポルフィリン修飾CCG(CCG-ZnP)を合成した。この複合体は、DMFなどの有機溶媒に高い分散性を示した。CCG-ZnPに対して420 nmの励起光を用いた過渡吸収スペクトル測定を行ったところ、得られたデータは2つの減衰成分によりフィットされた。そのうち、0.3 psの短い寿命を有する成分はCCG部位の基底状態のブリーチングに由来すると考えられる。さらに、560 nmと600 nmに下に凸のピークを有し、可視領域全体に正のシグナルを示す成分が観察されたが、これはその波形からポルフィリンの励起一重項状態に帰属できる。しかしながら、その寿命(38 ps)はZnP-refの励起一重項状態寿命(~2 ns)と比較して著しく短い。つまり、CCG-ZnPのポルフィリン部位の励起により、38 psの時定数でポルフィリン励起一重光状態からCCGへのエネルギー移動が起こり、CCGの励起状態は0.3 psという著しく短い時定数で基底状態に緩和することが示された。また、CCG-ZnPを酸化スズ電極上に薄膜化し、その光電気化学特性を検討したところ、ポルフィリン吸収に由来する光電流の発生は見られなかった。これは、電荷分離が観測されなかった時間分解分光測定の結果と一致する。これらの結果は、グラフェンとπ共役分子からなる複合体の、有機デバイス材料としての応用に重要な知見を与えるものである。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、平成23年度にポルフィリンなどをグラフェンに共有結合した複合材料を創出して構造解析し、平成24年度以降に光ダイナミクスの解明および光電変換特性の評価を行う予定であった。しかしながら、STMを用いた構造解析は現在取り組んでいるところではあるが、その他の研究計画は全て平成23年度中に遂行することができた。
ピレンなどのπ共役系化合物をグラフェンに共有結合により付加した複合体を創出し、その分光学的性質、光ダイナミクス等を調べる。それにより、付加基同士の位置関係など、その構造に関する詳細な検討を行う。
基本的な有機合成用の実験装置や、紫外可視近赤外吸収スペクトルや核磁気共鳴分光など、合成化合物の同定や基礎的な物性の測定および光電気化学測定を行う装置は、研究室や専攻の施設として備わっており、それらを使用することができる。そのため、研究経費の多くを、光機能性グラフェンを作製するための有機合成用試薬やガラス器具、光電変換デバイス作製・評価を行うための消耗品購入費に充てる。また、国内外の大学研究者と共同して研究を遂行する部分があるため、学会での成果発表の他、共同研究打ち合わせのための旅費を計上する。
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