研究課題/領域番号 |
23550208
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
山雄 健史 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 准教授 (10397606)
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キーワード | 高性能レーザー / 先端機能デバイス / 有機半導体 / 有機結晶 / 駆動方法 |
研究概要 |
1. ハイブリッド有機半導体結晶の成長:2種類の(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー (TPCO) から構成されるハイブリッド結晶を成長した。TPCOには分子両末端にビフェニル基をもつチオフェン (BP1T) とターチオフェン (BP3T) を選んだ。2種類の気相成長法および1種類の液相成長法を用いて、ハイブリッド結晶を作製した。ハイブリッド結晶は、BP1T単独およびBP3T単独の結晶の中間の発光色を示す一方で、結晶構造や電界効果移動度はBP1Tのそれらに近かった。これらの結果は、BP3T分子がドーパントとしてBP1Tマトリックス結晶中に分散した構造をもつことを示す。 2. 光共振器を備えたデバイスの作製:回折格子とTPCO結晶を組み合わせた有機発光電界効果トランジスタ (OLEFET) から、スペクトル幅が狭くなる狭線化発光を観測した。回折格子は光共振器として作用し、レーザー発振の閾値の低減が期待される。BP1T、BP3Tと分子両末端にビフェニル基をもつビチオフェン (BP2T) の結晶を、液相成長法を用いて2次元回折格子上に直接成長した。正孔注入電極に金を、電子注入電極にn型有機半導体薄膜を配置してOLEFETを完成した。このOLEFETは電流注入発光で最小の半値全幅が~3 nm程度のスペクトルを示した。 3. ダブルゲート素子の作製:ゲート電極を二つもつダブルゲートOLEFETを作製した。この素子は、トップゲートとボトムゲートのOLEFETを併せた構造をもつ。両方のゲート電極を同時に用いた場合、それぞれ片側のゲート電極を用いた場合に比べ、同じ電圧印加条件で約2倍のドレイン電流が流れた。さらに両方の電極に同じ交流電圧を印加させながら電流励起発光させたところ、片側しかゲート電極をもたない素子に対し、半分程度のゲート電圧の大きさで発光が観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハイブリッド有機結晶は、積層結晶によるpn接合に対する有機半導体材料の選択肢や組み合わせの自由度を広げた。積層そのものを用いずに、pn接合に近い単結晶が作製できる可能性も示せた。 一方、回折格子とTPCO結晶を組み合わせたOLEFETで、電流励起による狭線化発光を安定して実現できるようになった。狭線化発光波長の結晶の厚さに対する依存性の知見が今回新たに得られた。この結果は、電流励起発光デバイス設計の重要な指針となる。 さらに、ダブルゲート構造が素子を流れる電流量の増加や印加電圧の低減に効果的であることを見出した。TPCO結晶で電流励起による発光増幅の前駆的な現象も観測されつつあり、ダブルゲート構造とpn構造を組み合わせることでレーザー発振実現のための素子構造が構築できる可能性が高まった。
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今後の研究の推進方策 |
1. 狭いゲート電極と回折格子をもつ素子の作製 複数の手法を用い、回折格子をゲート絶縁膜に配備したデバイス基板を現在準備している。これらのゲート絶縁膜には、狭いゲート電極を構築することができる。OLEFETのゲート電極を狭くすると、素子の耐電圧が向上するとともに、高い発光輝度が実現できる結果をすでに得ている。これに、今年度得られた回折格子からの安定した電流励起による狭線化発光を組み合わせることで、輝度の向上を図るとともに、電流励起による増幅現象を実現する。 2. ダブルゲートOLEFETへの交流ゲート駆動条件の最適化 今年度は一組の交流電圧印加装置(発振器と増幅器の組合せ)を用い、ダブルゲートOLEFETの両方のゲート電極に対し同じ交流電圧を印加して発光を観測した。次年度は、装置を二組準備し、異なる電圧をそれぞれのゲート電極に印加することで、OLEFETからの発光の高輝度化を図る。特にpn接合をもつOLEFETにダブルゲート構造を適用し、p型とn型の半導体に逆位相のゲート電圧を印加するのが効果的であると予想される。この条件を中心に、様々な位相条件で発光観測を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、主に物品費と旅費に充当する。物品費で、基板、溶媒、ガラス器具を含む実験必需品を購入する。旅費は、国際会議(国内外各1件)や国内会議(1件)の旅費に充当する。
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