研究課題/領域番号 |
23550212
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
金澤 昭彦 東京都市大学, 工学部, 教授 (80272714)
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キーワード | 有機電子材料・素子 / 有機電極活物質 / レドックス導電性高分子 / ポリチエン / リチウムイオン電池 |
研究概要 |
今年度はまず、ポリチエンの電池反応の反応機構について検討した。ポリチエンの電池反応は、分子内あるいは分子間ジスルフィド(S-S)結合の酸化還元反応に基づくと当初予測していた。充放電容量の改善を目指し、まず電池反応機構に関する検討を行った。固体ポリチエンサンプルを用いて電子スピン(EPR)共鳴測定を行ったところ、硫黄単体(S8)と同様にSラジカルが検出され、電池反応はS-S結合に起因することが示唆された。また、観察されたEPRシグナルは空気や溶媒(プロピレンカーボネートPCなど)、共存電解質(LiClO4など)に対しても長期間安定であり、ポリチエン活物質が実用材料として有望であることが確認できた。また、ポリチエンの高効率合成法の確立に関する予備的な検討を行った。従来のトリ-n-ブチルホスフィンとは異なる置換基をもつ第三級ホスフィンを用いて、二硫化炭素との錯形成挙動ならびに二硫化炭素の光重合挙動に及ぼすホスフィンの影響について検討した。まず、二硫化炭素とホスフィンとの錯形成について、特筆すべきはトリ-t-ブチルホスフィンが高い塩基性をもつにも拘わらず二硫化炭素と錯形成しないことである。嵩高い置換基によりP原子周りの立体障害が大きいため、二硫化炭素と錯形成しないと考えられる。以上の結果を踏まえて、トリ-t-ブチルホスフィン存在下における二硫化炭素の光重合について検討した。トリ-t-ブチルホスフィンと二硫化炭素を等モル混合した溶液に高圧水銀灯の366nmの輝線を12 h 照射したところ、照射時間とともに反応液は黒色に変化し、黒色の反応生成物を得ることができた。生成物を同定した結果、ポリチエンであることを確認した。この新規な光重合法の従来法との相違点は、二硫化炭素のみが選択的に光励起されるので、単一の反応経路から副反応を伴わず、化学組成が均質なポリチエンが生成することである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ポリチエンの製造法の改良を行い、耐熱性や機械的性質などに優れるポリチエンの新合成法を確立した。また、これに伴い固体ポリチエンフィルムの電子伝導性も実証することができた。改質ポリチエンをリチウムイオン電池の正極活物質に用いることによって、充放電容量、繰り返しサイクル特性とも向上させることができた。 ポリチエンの電池反応は、分子内あるいは分子間ジスルフィド(S-S)結合の酸化還元反応に基づくと当初予測していた。充放電容量の改善を目指し、まず電池反応機構に関する検討を行った。固体ポリチエンサンプルを用いて電子スピン(EPR)共鳴測定を行ったところ、硫黄単体(S8)と同様にSラジカルが検出され、電池反応はS-S結合に起因することが示唆された。また、観察されたEPRシグナルは空気や溶媒(プロピレンカーボネートPCなど)、共存電解質(LiClO4など)に対しても安定であり、ポリチエンが活物質として有望であることがわかった。ポリチエンを正極活物質に用いた場合、ポリマーの単位ユニット(CS)あたり1:1でLi化されると仮定すると理論容量は約609 mAh/g正極材となる。しかしながら、実際には約800 mAh/g正極材の放電容量が得られており、理論値より大きいことになる。ポリチエンはπ共役構造を有することから、Liカチオン-π電子相互作用や材料の高次構造などに由来する付加的な放電機構の存在が考えられる。本研究では、二硫化炭素の光重合によって得られたポリチエンを用いて正極材の作製法を検討することによって、充放電時とも1,200 mAh/g活物質を超える容量を実現できた(クーロン効率:70~84%)。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに開発してきた光重合法は工業的に適さないので、モノマー原料である二硫化炭素の電解還元重合による大量合成法の確立を目指す。具体的には、トリ-t-ブチルホスフィン存在下における二硫化炭素の電解還元重合法に関して検討する。 電解重合法に関しては、従来トリ-n-ブチルホスフィン-二硫化炭素錯体の酸化重合を用いてきた。この場合は反応機構が複雑であり、生成するポリチエン中に分解物や副生物が含まれてしまう。そこで、今年度得られた知見に基づいて、トリ-n-ブチルホスフィン-二硫化炭素錯体ではなく、二硫化炭素を出発原料に用いる。まず、二硫化炭素単体のサイクリックボルタンメトリー測定を行い、電解重合の諸条件を決定する。二硫化炭素と錯形成しないトリ-t-ブチルホスフィンを共存させ、二硫化炭素の電解還元重合を試みる。重合機構の検討とともに得られた反応生成物の同定を行い、二硫化炭素からポリチエンへ高効率変換を実現する。
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次年度の研究費の使用計画 |
「次年度使用額」は28,280円であり、概ね計画どおりの予算執行を行うことができた。翌年度は、翌年度請求額に「次年度使用額」を含めて、研究計画に沿って予算執行する予定である。
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