研究課題/領域番号 |
23550213
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮前 孝行 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 主任研究員 (80358134)
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キーワード | 和周波発生 / 表面・界面 / 有機EL / レーザー分光 |
研究概要 |
今年度は、実際に動作する有機ELデバイスにたいして、2波長可変SFG計測装置を用いた非破壊計測を進めた.2波長可変SFG計測装置では迷光除去のため多段のフィルターと低分散のプリズム分光器を検出器の前段に設置しており、高輝度の有機ELを発光させた状態で計測が可能である. 本システムを用いてイリジウム錯体の燐光を用いた多層有機EL素子についてSFGスペクトルの測定を行った.可視光励起波長を460nmにして試料にかける電圧を徐々に変えて測定を行ったところ、1608cm-1に見られるSFGのピークが印可電圧に応じて強度が強くなる現象が観測された.用いた有機材料のSFGスペクトルの測定から、この振動ピークは、ホール輸送材料として用いているα-NPD由来の振動モードであると帰属した.また、試料に印可する電圧を逆バイアスにしたところ、今度は電子輸送材料として用いているAlq3の振動が強調される.これらのスペクトルの挙動は「電界誘起効果」として知られる挙動であり、試料に印可される局所的な内部電界によって、SFGの信号強度が強調される現象によって引き起こされている.また逆バイアスでAlq3の信号が強調されるのは、測定に用いた可視光波長460nmによって発生するSFG光波長430nmがAlq3の最低励起吸収と共鳴した「2重共鳴効果」によって引き起こされたものである.このように有機材料表面・界面の評価手法としてのSFG分光だけでなく、実在のデバイスの評価解析にも2色可変SFGが非常に有効な手法であることを実証した. 本成果はApplied Physics Lettersに発表し、また2012年8月15日付けで産総研からプレス発表を行った.さらに日刊工業新聞や化学新聞などでも取り上げられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画では、2色可変SFGを用いた有機界面評価を実際の有機デバイスへ適用するという挑戦的な研究課題であった。通常の有機ELデバイスはガラス基板上やプラスチック基板上に作製されるためそのままの状態ではSFG分光の測定を行うことは不可能であるが、産総研に設置されている次世代化学材料評価研究技術組合(CEREBA)の協力により、SFG分光測定のためにフッ化カルシウム基板を使用した有機ELデバイスを作成していただき、その特性を評価しておくことで、通常の有機ELデバイスと同じ特性を有する試料を入手することができ、当初の予定通り順調に研究を進めることができた。 実際に安定して動作する有機ELデバイスは性質の異なる有機層が幾層も積層され、劣化防止のために封止された状態で作製されており、本研究で使用した有機ELデバイスも劣化防止のために封止処理が施されたものである。こうした封止状態の有機EL実デバイス内部の各有機層からの情報を選別して計測できる手法は極めて限られる。我々は、SFG分光において、可視光の波長を有機物固有の光学遷移に合わせることで起こる2重共鳴効果と、測定試料に電位をかけることで引き起こされる電界誘起効果を効果的に使用することで、積層型有機ELの個別の層の情報を引き出すことに初めて成功した。この手法は、有機デバイスを非破壊で計測する方法として非常に有効な方法であり、今後、有機デバイスの機構解明だけでなく、この手法を有機太陽電池でバイスなどへの応用展開を目指していく。
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今後の研究の推進方策 |
有機材料の2色可変SFG測定を着実に遂行するために、いくつかの可視光波長を使用して、さらに個々の有機層の情報を選別していく技術を確立していく。たとえば有機ELデバイスでは発光層に用いられるホスト材料として、紫外の波長領域に球種を持つ材料が使用されているが、可視光を用いたSFG分光では、ほかの有機層からの信号に阻害されてこのホスト材料の信号をとらえることが困難である。こうした材料の情報を得るために、紫外領域の励起光を使用してSFG測定を行うことでさらに個別の有機層の情報の選別を可能にし、さらに電圧を印加した状態で対象とする有機層が電圧に対してどのような応答をするのかを見ていくことで、有機EL内部の動作状態における電界分布を明らかにすることが可能となるはずである。一方で、有機薄膜太陽電池をはじめとする種々の構成を有する有機実デバイス構成による動作条件下におけるSFGのその場計測についても試験的に実験を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に引き続き、電界誘起2重共鳴SFG分光による有機ELデバイスの電界挙動の計測を進めていく。このため、現有する2色可変SFG分光装置で、可視光波長可変ユニットから取り出す可視・近赤外光を、BBO結晶を通すことにより2倍波となる紫外光を発生させ、この紫外光と赤外光との和周波を測定できるように装置を調整する。また、平成25年度では新たにバルクヘテロ構造を有する、有機薄膜太陽電池を対象としてSFG分光の測定を行う。バルクヘテロ構造を有する有機薄膜太陽電池の場合は、有機ELとは逆に可視光から近赤外光領域に材料の光学遷移が存在する。そのため、SFG分光の可視光使用波長域としては長波長域の測定を可能にする必要があり、光学ミラーなどを新たに調達して有機ELから有機薄膜太陽電池場での幅広い材料の評価解析を進めていく予定である。
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