研究課題/領域番号 |
23550222
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山田 高広 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (10358260)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 熱電材料 / スズ化合物 |
研究概要 |
本研究課題は,研究代表者らが見出したNaを利用した金属シリサイドの低温合成法を活用し,従来のシリサイドの合成法である高温プロセスでは取扱いが困難な揮発性元素を含むシリサイドの合成を試み,それらの特性を明らかにすることが目的である.最初に揮発性元素Pを含むシリサイドの合成を試みたが,予備的な実験で,Pと容器との反応性などの克服すべき問題が生じた.そこで,研究対象とする揮発性元素を,研究代表者がシリサイドの合成において取扱いの経験があるNa(融点:98℃)やMg(融点:650℃)に変更し,それらを含むシリサイド,さらにSiと同じ14族元素で構成されるゲルマナイド,スタンニドに合成系を広げて研究を進め,新規化合物Na2MgSnを見出した.Na2MgSnは,定比組成の金属元素を550℃以上で加熱することで得られ,その粉末X線回折パターンは,Li2CuAs型構造のNa2CdSnと類似していた.単結晶を作製し,構造解析を行なった結果,六方晶系,空間群P63/mmc, a = 0.50486(11) nm, c = 1.0095(2) nmで,MgとSn原子で構成される2次元ハニカム格子層がNa原子を挟んで c軸方向に積層した結晶構造が明らかになった.測定されたNa2MgSn焼結体試料の電気抵抗率は9.6~10.4 mΩ cm (90~635 K),ゼーベック係数は+390~150 μV K-1 (300~430 K)で,Na2MgSnはp型のナローバンドギャップ半導体であることが判明した.熱電特性の指標の一つであるパワーファクターの最大値は1.5×10-3 W m-1 K-2 (300 K)で,この値は高特性実用熱電材料であるBi2Te3の約40 %に匹敵する.Na2MgSnは,資源的に豊富で毒性の少ない元素で構成される低温領域で使用可能な熱電材料としての応用が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究で,最初に試みたPを含むシリサイドの合成において,実験的な問題が生じたものの,対象元素をこれまでに取扱いの経験のあるNaおよびMgに変更し,合成系をシリサイドからSiの同族元素であるSnを含んだスタンニドにまで広げることで,新規化合物Na2MgSnを見出すことができた.また,この物質はNaとMgを含むスタンニドとしても初めての報告例で,同型構造の物質の報告例も多くはないことから,学術的にも意義のある成果といえる.本研究課題は,従来のシリサイドの合成法である高温プロセスでは取扱いが困難な揮発性元素を含むシリサイドの合成を試み,それらの特性を明らかにすることが目的である.新規化合物Na2MgSnが見出され,それが高い熱電特性を有していることを示せたことから,本研究課題はおおむね順調に進行しているといえる.材料として使用する観点からは,大気中で安定な元素で構成される化合物が望まれる.これは次年度以降の課題である.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,揮発性元素として新たにZnを対象とし,Naを用いた低温合成法を活用することで,Znを含むシリサイドの合成を試みる.具体的には,研究代表者が,これまでNaを用いて低温合成を行ってきた熱電特性を有する遷移金属シリサイドであるCrSi2, MnSi1.7+δ, β-FeSi2, CoSiへのZnドーピング,または,それら遷移金属とZnを含む新しい3元系シリサイドの合成を試みる.初年度において,合成を試みる系をシリサイドだけでなく,スタンニドにまで広げることで,新規化合物Na2MgSnが見出されたことから,次年度以降は,合成対象をSiと同じ14族元素を含むゲルマナイド,スタンニド,プラマイドにまで広げることで,新規化合物の発見や高い熱電特性を示す化合物の合成の可能性を高めて研究を進める.合成された化合物は,それらの熱電特性を測定によって明らかにするが,Na2MgSnがそうであったように,場合によっては,大気中での測定が困難な物質も予想される.そのため,不活性雰囲気中での精度の高い電気的特性の測定(電気伝導率およびゼーベック係数)を可能にするべく,装置系の改良も行なう.また,測定に必要なバルク焼結体の作製が困難な試料が得られた場合は,短時間かつ低温で試料を焼結させることが可能な共同利用設備パルス通電焼結装置の利用も積極的に行なう.尚,初年度で見出されたNa2MgSnに関しては,高い熱電特性を有することから,その特性の向上を目指した研究も並行して進めていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では,研究費は主に原料金属,加熱容器,ルツボ,高純度不活性ガスの合成に必要な具材と,不活性雰囲気下の測定系の改良に必要な具材の購入に使用する.また,国内および国際会議に初年度の成果を発表するための旅費としても使用させて頂く.
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