研究概要 |
本研究課題は,揮発性元素を含むシリサイドおよび他の14族の金属間化合物の合成を試み,それらの結晶構造と特性を明らかにすることが目的である.本年度は揮発性元素としてZnを含むシリサイドの合成を目指し,M-Zn-Si系 (M = Mg, Cr, Mn, Fe, Co)で合成を試みたが,Znを含むシリサイドは合成されなかった. 初年度に,揮発性元素であるNaとMgを含んだ新規化合物Na2MgSnを合成することができたことから,本年度は,同系のスズ化物や鉛化物の合成を目指し,Na-Mg-X (X=Sn, Pb)系での物質探索を行なった.その結果,Na2MgPbおよびNa2Mg3X2 (X=Sn, Pb)の3つの新規スズ化物および鉛化物を合成することに成功し,それぞれについて,結晶構造の解析および電気的特性の評価を行なった.Na2MgPbの結晶構造は,Na2MgSnと同じLi2CuAs型構造,Na2Mg3X2 (X=Sn, Pb)の結晶構造は, MgおよびNaがSn/Pb原子で構成される歪んだ四面体内が稜を共有しながら3次元的につながったMg5Ga2型構造であることが明らかになった.いずれの化合物も電気的特性は金属的で,Na2Mg3Sn2が最も高いゼーベック係数(+70 μVK-1, 500 K)を示した.Na2Mg3Sn2のパワーファクターの最大値は1.1×10-3 Wm-1K-2(500 K)で,比較的高い値を示した. 揮発性元素であるMgを含んだシリサイドとして,Mg2Siの研究を進める過程で,その粉末を温度勾配のある容器内で,873 K, 500 Paで40 h加熱することで,固相のMg2Si粒子からMgが蒸気として脱離し,原料のMg2Si粒子の形状を保持した多孔質のSi粒子が生成することを見出した.この合成手法は多孔質Si粉末の簡便な合成法として期待される.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,本年度の成功例に習い,合成の対象をシリサイド,およびSiと同族元素のGe, Sn, Pbを含むゲルマナイド,スズ化物,鉛化物に広げ,揮発性元素NaおよびMgを含んだ新規の金属間化合物の合成を目指して研究を進める.これまでに見出した新規化合物で比較的高い熱電特性を示したNa2MgSnやNa2Mg3Sn2に関しては,バルク体の緻密化や元素置換等を行ない,それらの特性の向上を目指した研究を進める.これらの化合物は大気中では不安定であるため,それらの電気・熱的特性を評価するための不活性雰囲気中での測定系の充実を図る.材料への応用の観点からは,大気中で安定な化合物が望まれる.よって,大気中での安定性が高いと期待されるような化合物,具体的には化合物中のNaなどの活性金属元素の組成比が少なく,また活性金属元素を包摂するような結晶構造を有するクラスレート化合物の合成も試み,結晶構造や熱・電気的特性の評価を行なう.
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