研究課題/領域番号 |
23550223
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
柴 史之 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 准教授 (10312969)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 無機合成 / 液相法 / 還元反応 / 錯体生成 / 外部添加法 / ゼラチン |
研究概要 |
本研究は,金属イオンとヘキサシアノ鉄酸イオンからなる,いわゆるプルシアンブルー類似体(以下M-HCF,Mは金属イオン)のナノ粒子の精密合成法確立を主目的としており,今年度はMが1種類の場合について,以下の観点から検討を行った。なお,いずれもゼラチンを保護コロイドとして用いている。 (1) 還元法による単分散Fe-HCFナノ粒子のサイズ制御:還元剤としてアスコルビン酸とクエン酸を同時に利用することで,前者による核生成と後者による粒子成長という機能分離を行った。アスコルビン酸の添加量により生成核数を変えることで,単分散Fe-HCFナノ粒子のサイズ制御に成功した。また合成されたFe-HCFナノ粒子を,反応溶液に種粒子として添加して追加成長することで,単分散性を維持したまま,更に大きなサイズのFe-HCFナノ粒子を得ることができた。 (2) 錯体貯蔵法による単分散Co-HCFナノ粒子の合成と生成機構:コバルト(II)イオンをクエン酸錯体の形で中性pHの出発溶液中に貯蔵した。ここに強酸を添加してpHを下げてクエン酸の解離状態を変化させることで,コバルトイオンを放出し, フェリシアン化物イオンと反応させることで,単分散Co-HCFナノ粒子の合成に成功した。平衡計算から,約5%のコバルトイオンが酸添加により放出されて核を形成し,その後,沈殿平衡の成立による自発的な物質移動で粒子が成長すると結論された。また酸添加で直接放出されるCoイオン量が粒子サイズの決定因子であることを見いだした。 (3) 外部添加法による単分散Co-HCFナノ粒子の合成:フェリシアン化物水溶液中に,Co-クエン酸錯体溶液と硝酸を,外部から同時に等速度で連続添加することで,単分散Co-HCFナノ粒子の合成に成功した。また添加速度と添加時間の条件設定により,サイズ制御が可能であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度の研究計画においては,Mが1種類のM-HCFナノ粒子について,「還元法」,「錯体貯蔵法」,「連続添加法」の3種類の手法の確立を目指していた。研究実績に記載したとおり,これらについて一応の成果を得ることが出来ている。しかしながら,以下の点について未達事項があり,若干の遅れが生じていると考えている。 ・錯体貯蔵法系において,Co-HCFについては十分な成果を得たが,Ni-HCF系への適用が上手くいっていない。すなわちNi-HCFの沈殿生成反応そのものは起こるが,粒子の単分散化やゼラチンによる凝集防止が不十分で,これに対するブレークスルーがまだ見いだせていない。 ・連続添加法系において,原理・適用の実証と,そのための基本的な方向性は確認されたが,粒子生成理論からの予測と矛盾している部分があり,反応系の最適化を更に進める余地が残っていると思われる。 また全般的に,金属イオン種のバリエーションが少なく,これらの手法の一般化という点でも,研究を進展させる余地が残ってしまっている。研究計画では,MはFe, Co, Niを想定しており,前述の通りNi系に遅れがある以外は,計画の遅れに該当はしないが,今後の考えると,より広範囲な金属種を展開できていた方が,より望ましかったと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き「還元法」,「錯体貯蔵法」および「連続添加法」の確立と一般化を目指す。還元法においてはFe-HCFを中心に,還元剤や添加剤の選択による,粒子の形態制御法を中心に検討を行う。錯体貯蔵法では,まず,今年度の達成度自己点検が『やや遅れている』となった原因である,多様な金属イオンの適用を試み,複数種が含まれる多成分系へと発展させる。加えて,これらにおいて生成粒子の形状やサイズをもとに,Co-HCF系で提唱した反応機構の妥当性を検証する。またクエン酸イオンとの安定度定数が,金属イオン種により異なることの影響に着目して,解析を行う。連続添加法においては,まずはCo-HCFについて,混合条件の最適化の達成と,粒子生成理論による解析を行い,錯体貯蔵法と同様,2種類以上の金属イオンからなるM-HCFナノ粒子の合成を試みる。 多成分系について,平成24年度は金属イオンの組成分布が均一である場合を主に取り扱い,次年度のコアシェル(ないし多層)状に分布する粒子合成の基礎を確立する。なお,得られた粒子のサイズ・形状の評価は電子顕微鏡,金属イオンの組成はEDX法により測定を行う。また適宜,XRDによる結晶構造解析・結晶子サイズ評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の推進に必要な基盤的設備は,ほぼ整ったので,平成24年度においては,各種消耗品,具体的には試薬類,ガラス・プラスティック器具類,電子顕微鏡観察関係消耗品への支出が中心となる。実験器具類としては,状況に応じて,恒温水槽および撹拌装置の追加購入を行う予定である。その他,平成23年度の成果報告および今後の調査研究のために,旅費の支出を予定している。
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