研究概要 |
本研究計画では,種々のモリブデンブルーブロンズのナノリボン調製法の確立を目指して研究を行っている.モリブデンブルーブロンズ(M0.3MoO3, M=K,Rb,Cs,Tl)は常温で1次元金属であり,低温で金属-半導体転移を起こしてCDW 状態を取り,CDWの滑り運動に由来した非線形電気伝導やメモリー効果などの興味深い物性を示す.最近,そのCDW 状態が光に応答して変化することが明らかになり,注目されている.CDWのコヒーレント長程度のサイズをもつ結晶では,CDWがサイズ効果を受け,バルク結晶とは異なった特性を示すことが報告されている.光の浸入長(約0.1 μm)程度の厚さの結晶では,結晶全体のCDW状態を光照射により変化させることができるので,0.1 μm以下の厚みをもち,利用しやすいナノリボンとして調製されたブルーブロンズ結晶は,画期的な光応答非線形伝導材料になることが期待される. 本年度の研究では,水素ブロンズ(HxMoO3)を出発物質とした水熱条件下での固相反応によるカリウムブルーブロンズ(K0.3MoO3)のナノリボン(ナノワイヤー)調製法の開発に成功した.この研究成果については,日本化学会第92春季年会で報告を行った.また,この合成に用いる水素ブロンズを従来法より簡便に合成する方法の開発にも成功した.さらに,水和アルカリブロンズを出発物質としたブルーブロンズの合成法の開発にも目途をつけることができた.これは,合成法の選択肢を増やし,カリウム以外のブルーブロンズ(M0.3MoO3, M=Rb,Cs)や混晶系(K0.3-xMxMoO3, M=Rb,Cs, 0<x<0.3)のブルーブロンズのナノリボン調製法の開発を実現するために行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モリブデンブルーブロンズは混合原子価状態(5価/6価)のモリブデンを含み,不活性雰囲気での合成が必要な物質である.1999年-2005年の我々の水熱処理を用いたカリウムブルーブロンズの合成法の研究(Eda et al., Chemistry Letters, 28, 811 (1999); Chin et al., Journal of Solid State Chem., 164, 81 (2002); Eda et al., J. Solid State Chem., 178, 1471 (2005))では,真空ラインとグローブボックスを併用して完全に脱酸素雰囲気を実現することによって,純粋なカリウムブルーブロンズ粉末を合成することに成功している.今回の研究計画ではより簡便な方法を用いて,純粋な種々のブルーブロンズ(M0.3MoO3, M=K,Rb,Cs,K0.3-xMxMoO3, M=Rb,Cs, 0<x<0.3)を合成し,なおかつ,ナノリボン状に調製することを目指している.なお,本年度の研究計画では水素ブロンズを出発物質としたカリウムブルーブロンズのナノリボン合成法の確立を目指した. 本年度の研究では,カリウムブルーブロンズのナノリボン生成に及ぼす水熱処理時の処理溶液の液性や有機分子の添加効果,出発物質の組成・構造の影響などについて様々な条件で調べることができた.それにより,真空排気やグローブボックスを使用して完全に酸素を除去した環境を作らなくても,目的のカリウムブルーブロンズを純粋で,かつナノリボンとして調製する方法を確立する目途をたてることができ,特に,水素ブロンズを出発物質とした系ではカリウムブルーブロンズ・ナノリボンの合成法を確立することができた.したがって,本研究計画はおおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
次年度(平成24年度)の研究では,平成23年度に得られた成果を基にして以下の事を行う.1)水素ブロンズを出発物質とした系で,Rb0.3MoO3, Cs0.3MoO3ナノリボンの調製法の条件検討を行なう.2)水和アルカリイオン挿入化合物と共挿入水和アルカリイオン挿入化合物を出発物質とした系で,K0.3MoO3, Rb0.3MoO3, Cs0.3MoO3, K0.3-xRbxMoO3, K0.3-xCsxMoO3ブルーブロンズの合成条件の検討を行なう3)水素ブロンズを出発物質とした系で得られるK0.3MoO3の"結晶の細片化"や"方向選択的な結晶成長"を促す因子の解明を行う. 1)-3)の成果を踏まえ,平成25年度の研究を実施する上での問題点を検討し,平成25年度の研究がスムーズに遂行できるよう対策をとる.
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