研究課題/領域番号 |
23550226
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
枝 和男 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00193996)
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キーワード | 無機合成 / ソフトケミストリー / 機能性酸化物 / ナノリボン / 水熱合成 |
研究概要 |
本研究計画では,種々のモリブデンブルーブロンズのナノリボン調製法の確立を目指して研究を行っている.モリブデンブルーブロンズ(M0.3MoO3, M=K,Rb,Cs,Tl)は常温で1次元金属であり,低温で金属-半導体転移を起こしてCDW 状態を取り,CDWの滑り運動に由来した非線形電気伝導やメモリー効果などの興味深い物性を示す.最近,そのCDW 状態が光に応答して変化することが明らかになり,注目されている.CDWのコヒーレント長程度のサイズをもつ結晶では,CDWがサイズ効果を受け,バルク結晶とは異なった特性を示すことが報告されている.光の浸入長(約0.1 μm)程度の厚さの結晶では,結晶全体のCDW状態を光照射により変化させることができるので,0.1 μm以下の厚みをもち,利用しやすいナノリボンとして調製されたブルーブロンズ結晶は,画期的な光応答非線形伝導材料になることが期待される. 本年度の研究では,これまでに水熱法で合成がなされているカリウムブルーブロンズ以外のブルーブロンズのナノリボン調製法の開発を可能にすることを目指し,ブルーブロンズをつくる4種の陽イオンのうち,合成が最も難しいと予想される、イオンサイズの最も大きなセシウムイオンのブルーブロンズナノリボンの調製法の開発に取り組み,目的のセシウムブルーブロンズのナノリボンを合成することに成功した.この研究成果については,日本化学会第93春季年会で報告を行った.また,これまでに調製法の確立に成功しているカリウムブルーブロンズのナノリボンも含めて、TEMによるこれらナノリボン試料の構造の解析に取り組み,これらが1次元金属としてのブルーブロンズの電気伝導方向に沿って伸長したナノリボンであることを確認することもできた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブルーブロンズは混合原子価状態のモリブデンを含み,その合成には不活性雰囲気が一般に必要である.1999年-2005年の我々の水熱処理を用いたカリウムブルーブロンズの合成法の研究(Eda et al., Chemistry Letters, 28, 811 (1999); Chin et al., Journal of Solid State Chem., 164, 81 (2002); Eda et al., J. Solid State Chem., 178, 1471 (2005))では,真空ラインとグローブボックスを併用して完全に脱酸素雰囲気を実現することによって,純粋なカリウムブルーブロンズ粉末を合成することに成功している.今回の研究計画ではより簡便な方法を用いて,純粋な種々のブルーブロンズを合成し,なおかつ,ナノリボン状に調製することを目指している.なお,本年度の研究計画では,これまでに水熱法では合成がなされたことがない,カリウムブルーブロンズ以外のブルーブロンズのナノリボン調製法の確立を目指した. 本年度の研究では,ブルーブロンズのナノリボン生成に及ぼす出発物質の組成・構造と水熱処理時の処理溶液の液性や濃度の影響などについて様々な条件で調べることができた.それにより,ブルーブロンズをつくる4種の陽イオンのうち,合成が最も難しいと予想され,これまでほとんど知られていないブルーブロンズであるセシウムブルーブロンズのナノリボンを合成することに成功した.また,これまでに調製したブルーブロンズ・ナノリボンの構造をTEMなどにより調べ,これらが当初目指していた,ブロンズの電気伝導方向に沿って伸長したものであることも確認することができた.したがって,計画はおおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
次年度(平成25年度)の研究では,平成23,24年度に得られた成果を基にして以下の事を行う. 1)水和アルカリイオン挿入化合物と共挿入水和アルカリイオン挿入化合物を出発物質とした系で, Rb0.3MoO3, Cs0.3MoO3, K0.3-xRbxMoO3, K0.3-xCsxMoO3ブルーブロンズの合成条件の検討を行なう 2)水素ブロンズを出発物質とした系で得られるK0.3MoO3の“結晶の細片化”や“方向選択的な結晶成長”を促す因子の解明を行う. 3)得られているブルーブロンズ・ナノリボンの電気物性などの評価を行い,将来の応用の芽に繋ながる特異な性質を探す. 1)-3)の成果とこれまでの年度で得られた知見を総括する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究計画では多数の合成実験を行う.このため,主に薬品,ガスボンベ,ガラス器具,メンブランフィルター,サンプル容器等の消耗品の購入に研究費を使用する.また,試料のTEM観察や組成分析を行うため,機器使用料や冷媒,TEM用消耗品,分析用試薬の購入などにも研究費を使用する. なお,次年度の研究ではこれまでに得られたブルーブロンズ・ナノリボンの電気物性の評価なども考えており,そのための単一粒子測定用の試料ホルダーなどの製作も検討しており,これらの項目にも研究費を使用する可能性がある.これらへの研究費の使用は,成果発表旅費などへの使用との兼ね合わせで判断して,実際の使用を決める.
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