複合化による比表面積の大きな低下を防止し、酸化タングステン:酸化チタン= 5 : 95の比率で、比表面積を8~22%増大させた複合型光触媒の合成に成功したが、気相中でのトリクロロエチレンの分解における光触媒活性は、酸化チタンよりも低下した。その原因が、酸化タングステンの低い結晶性にあることが判明したので、酸化タングステンの結晶化を促進するような合成法の確立を目指した。その結果、タングステン酸ナトリウムの代わりにパラタングステン酸アンモニウムを用いて、酸化タングステンゾルを合成し、透析後、500℃で焼成することで、単斜晶系の酸化タングステンが合成できることを見出した。200℃、300℃焼成体は粉末X線回折において、単斜晶系とは異なる結晶ピークを示した。さらに、合成した酸化タングステンがトリクロロエチレンを光触媒分解できることも確認した。光触媒活性は200℃焼成体=300℃焼成体>500℃焼成体の順であった。次に、合成途中に得られるゾルを用いて、酸化チタンゾルと種々の割合で混合し、透析、乾燥後、200~500℃の範囲で焼成した。その結果、酸化タングステンを酸化チタンに対するモル比として2~5%を含有する複合型光触媒は、いずれの焼成温度においても酸化チタンよりも高活性であることが判明した。すなわち、本研究の目的である酸化チタンよりも高活性な複合型光触媒の合成に成功した。粉末X線回折の測定結果は、500℃で焼成した複合型光触媒における活性向上の原因は、酸化タングステンの共存によりアナターゼ型酸化チタンのルチル型への転移が抑制されたためであることを示唆した。一方で、200℃、300℃焼成体では酸化チタンは同程度の粒子径を有するアナターゼ型を保持しており、触媒活性向上の原因は、電荷分離効率の促進によるものであると考えられる。この原因の解明を今後も続けていく予定である。
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