本研究では、甲殻類の外骨格や貝類の真珠などの形成の仕組みであるバイオミネラリゼーションという作用に倣った方法で、天然多糖であるキトサンをコア、炭酸カルシウムをシェルとする有機無機ハイブリッドコアシェル型複合粒子を作製した。初年度にはキトサンコア粒子の作成条件が確立できた。最終年度である25年度は、研究実施計画に掲げていた「マイクロカプセルとしての利用」に関する研究に注力した。まず、キトサンマイクロコア粒子へモデル薬物を導入した。モデル薬剤としてはウラニン(親水性官能基を導入した蛍光色素フルオレセイン誘導体)を選択した。ウラニンはフルオレセインと同様の蛍光挙動を示す親水性の色素である。モデル薬剤をキトサンマイクロ粒子に取り込むには、次のような手順を試みた。キトサンの酢酸水溶液にモデル薬剤を添加しておき、界面活性剤を含むトルエン溶液と撹拌混合した状態で水酸化ナトリウムによって酢酸を中和した。キトサンは中性域で析出するため、界面活性剤の効果により、球状微粒子として得られる。析出・微粒子化の際にモデル薬剤は粒子中に取り込まれた状態となった。また、ウラニン導入キトサン微粒子からは酸性域でのみウラニンが放出されることも明らかとなった。次に、炭酸カルシウムによる無機シェルの付与を行い、ウラニン放出の制御を評価した。その結果、コア微粒子の状態ではウラニンの放出が観察された酸性域で、ウラニンの放出が抑制されることが観察された。キトサンはこれまで廃棄に回されていた天然物であり、本研究で薬物担体としての可能性が示されたことには非常に意義があると言えよう。
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