多孔質材料における吸着、分離、触媒などの機能は、細孔やメソ孔のサイズだけではなく、その内表面の性質に大きく依存する。本研究では、多孔質材料における内表面の性質を計測・評価する技術を確立することをめざした。機能として、酸触媒機能に着目し、酸強度および酸量の計測・評価を行った。手法としては固体NMR法を用い、対象物質としてはゼオライトやその類縁化合物、メソポーラス物質などを取り上げた。固体NMR法は、原理的に、非破壊・非接触で測定できる手法であり、in situ測定に適している。多孔質材料の内表面の性質を評価するために、分子をプローブとして細孔もしくはメソ孔に導入し、その分子の挙動(吸着サイト及びダイナミクス)を固体NMR法によって観測した。プローブ分子として、リン(P)を含む塩基性有機化合物、トリメチルホスフィンオキシド(TMPO)を用いた。31Pは天然存在比100%であり、NMRにおいて比較的感度の高い核種である。TMPOを導入する方法として、従来から用いられてきた溶媒を用いた方法(溶媒法)では多孔質材料によっては溶媒が残留してしまったため、溶媒を使わないで気相から直接導入する気相法を考案して溶媒の影響をなくした。気相法では、プローブ分子の導入温度を373 Kに上げることによって、TMPOをより均一に導入することができた。また、TMPOの導入量を増加させることができ、酸点のほとんどをプローブ分子でカバーすることができた。ZSM-5型ゼオライトでは、90~60 ppmの範囲に観測された31Pシグナルはブレンステッド酸点に吸着したTMPO、60~40 ppmの範囲に観測されたシグナルはブレンステッド酸点以外に吸着したTMPOに帰属された。以上により、酸触媒機能を持つ多孔質材料における酸性質を計測・評価する技術を確立することができた。
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