木材パルプよりセルロースを繊維化するためには、ポリマーを溶剤に溶かし(乾)湿式紡糸する手法が採用される。ポリマー溶液は様々な添加剤と複合させやすい特徴を有するため、本課題ではこれを利用してセルロースの高性能化することを目的とした。具体的にはカーボンナノチューブ(CNT)を紡糸線速度向上のための添加剤に利用し、紡糸速度の高速化したリヨセル法によりセルロース再生繊維の高強度・高弾性率化を試みた。その結果、ポリマーに対して0.3wt%以下の比較的少量の単層カーボンナノチューブ(SWNT)を添加することにより、未添加と比較し紡糸速度ならびに力学物性の大きな向上が認められた。弾性率、強度とも当初の目標値には届かず、またセルロースI型結晶繊維の作製には至らなかったが、引張強度1.2GPaならびに結節強度0.6GPaを有するII型結晶高性能セルロース繊維を作製することができた。高性能繊維を得るためにはCNTの種類ならびにその分散性が非常に重要であるが、本研究ではポリビニルアルコールならびにデオキシコール酸ナトリウムの併用が、効率性、再現性の観点よりSWNT分散剤として適していることを見いだした。一方で、繊維の巻取速度が200m/minを超えると、走行繊維が凝固槽から出て行く際に凝固液である水に引っ張られ、その荷重で繊維破断が顕著に発生するという問題点も明らかとかった。水より表面張力の低いメタノールを凝固液として使用すると約20%巻取速度を増加させることができたことから、今後は表面張力の小さな水をベースとした凝固液の探索が、紡糸速度向上の重要課題であるとの認識に至った。セルロースはもっとも汎用性があり力学的にも優れたバイオベースポリマー素材であることから、そのポテンシャルを引き出す上でSWNTのような異方形状ナノフィラーを用いることは有用であると考えられた。
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