研究課題/領域番号 |
23550240
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
大越 豊 信州大学, 繊維学部, 教授 (40185236)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 繊維構造形成 / PET / ポリエステル繊維 |
研究概要 |
高速紡糸・延伸などにより配向した高分子材料は配向結晶化を起こし、強度・弾性率などが顕著に増加する。しかし高強度の繊維では、分子の配向や結晶化度はほぼ飽和する。したがって繊維・高分子材料のさらなる高強度化を考える際、その指針として有用な構造パラメータが求められていた。本研究では、SPring8の超高輝度X線ビームとレーザー加熱延伸技術を組み合わせることにより、繊維構造が形成される過程を100マイクロ秒程度の時間分解能で測定できることを利用して、PET繊維, PEN繊維およびPTT繊維の繊維構造形成初期に出現するフィブリル状の中間構造に注目し、繊維強度を向上させる際に有用な指針となる構造パラメータを提案すると共に、繊維・高分子材料の強度発現機構に新たな視点を提供することを目的とする。より具体的には、これまで繊維強度向上に有効であることが知られていながら、そのメカニズムが必ずしも明らかになって居なかったいわゆる溶融構造制御による繊維強度向上に関して、繊維構造の形成過程を解析することによってメカニズムの解明を目指す。より一般的には、溶融紡糸線上での応力・温度履歴が、最終的な繊維構造および力学物性におよぼす効果を知るうえで、ブラックボックスとなって居た延伸時の繊維構造形成過程を明らかにすることにより、繊維の製造プロセスと最終繊維の力学物性との関係性をより定量的に設計するための基礎を構築する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、まず比較的研究が進んでいるPETについて、溶融紡糸線上におけるレーザー照射加熱の影響について解析を進めた。すなわち、溶融紡糸線上でレーザー光を照射することによって、繊維温度を急速に上昇させ、溶融紡糸時の糸張力を低下させた状態で巻き取ったas-spun繊維を作成した。この繊維を連続的にレーザー延伸した際の繊維構造形成過程について上記の解析を行うと共に、得られた繊維に関して繊維構造を解析すると共に、物性を評価した。この結果、レーザー光を照射した繊維では、繊維構造形成時に比較的太いミクロフィブリルが形成されている可能性が示された。ただしその差はわずかであり、定量的な解析を行うには精度が不十分である。したがって、アンジュレーターを組み込んだ超高輝度X線源を利用することによって、よりS/N比の高いデータを取得することが有効と考え、試行実験にまでこぎつけた。残念ながら、当日の放射光発生装置不具合により、来年度に持ち越されたが、測定準備は完了しており、有効性も確かめられたことから、この方針で定量的解析が可能なデータが得られると考えている。 一方で、Nylon6のレーザー紡糸についても検討を進めており、レーザー光を照射して溶融紡糸することによって、延伸後の最大強度を向上させ得る結果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、上記の様に持ち越されたPET繊維の繊維構造形成過程解明に注力すると共に、その基礎となるPETの溶融紡糸速度および延伸倍率の影響についても解析を進める予定である。溶融延伸倍率および延伸倍率を変えることによって、溶融紡糸時の糸張力を制御したas-spun繊維を作成し、この繊維を連続的にレーザー延伸した際の繊維構造形成過程について上記の解析を行うと共に、得られた繊維に関して構造・物性を評価する予定である。前者では特にフィブリル状構造の量と状態、後者では特に引張強度に注目し、両者の間に成立する関係を見出す。また、構造形成機構により明確な差が生じる可能性が期待できる溶融構造制御手法として複合紡糸、具体的には海島複合紡糸した繊維の構造形成プロセスについても検討する予定である。1000島の複合溶融紡糸繊維を使用することを想定しており、溶融構造形成のみではなく、100nm程度まで細繊化することが、島繊維の構造形成におよぼす影響についいても考察を進める。 これらの成果を受けて、最終年度では、PTT、PENおよびNylon6について、溶融構造制御が繊維構造形成におよぼす影響について評価する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も、研究費の多くはSPring8での実験に要する旅費および装置運搬費用に使用する予定である。 ただし、今年度後期(2011B)に予定していたSPring8での研究課題が採択されなかったため、この実験用に用意されていた旅費および装置運搬費用が次年度に繰り越されている。この実験は次年度春(2012A)に実施が決まっており、繰り越された経費で実施予定である。 またこれに加え、当初から次年度後半(2012B)に予定されていた実験も予定通り実施できることが決まっており、この実験のために計上されていた旅費および装置運搬費用も予定どおり使用する予定である。 この他、次年度予算には、当初計画どおり、報文の英文校正費用および若干の消耗品の費用を見込んでいる。
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