高速紡糸・延伸などにより配向した高分子材料は配向結晶化を起こし、強度・弾性率などが顕著に増加する。しかし高強度の繊維では、分子の配向や結晶化度はほぼ飽和する。したがって繊維・高分子材料のさらなる高強度化を考える際、その指針として有用な構造パラメータが求められていた。本研究では、SPring8の超高輝度X線ビームとレーザー加熱延伸技術を組み合わせることにより、繊維構造が形成される過程を100マイクロ秒程度の時間分解能で測定できることを利用して、特にPET繊維の繊維構造形成初期に出現するフィブリル状の中間構造に注目し、繊維強度を向上させる際に有用な指針となる構造パラメータを提案することを目的とした。 平成25年度には、PET繊維の溶融紡糸条件、特に巻取速度と紡糸線上でのレーザー照射が、得られた繊維を同等の延伸応力下で延伸した場合の構造形成過程に及ぼす影響について評価した。その結果、巻取応力が小さくなる条件、すなわち巻取速度が遅い条件および紡糸線上でのレーザー光照射によって、フィブリル状のsmectic相がより多く形成され、配向結晶化が始まるまでの誘導時間は増加し、速度は遅くなった。このことは、長いフィブリルがより多くできていることを示唆し、これらの条件で作成した繊維の特徴である高強度および熱収縮の高さと結びつく。
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