研究課題/領域番号 |
23550243
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
櫻井 敏彦 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10332868)
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キーワード | 人工核酸 / ペプチド核酸 / 遺伝子発現制御 / 細胞内輸送 / マクロピノサイトーシス |
研究概要 |
ポリエチレングリコール(PEG)の両末端にペプチド核酸(PNA)を配したPNA-PEGコンンジュゲート(PPC)が,37˚C近傍において1塩基の違いを認識した遺伝子発現制御を誘起する認識機構について,熱安定性および遺伝子発現抑制効果の観点から検討した。 ルシフェラーゼ発現プラスミドの開始コドン近傍をターゲットとしたPNA-PNAコンジュゲートおよびPNAオリゴマーを系統的に調製した。得られたPNA化合物とDNAとの相補鎖形成能を測定した結果、PEGを間に介した分子構造によりTm値が大幅に減少することが示された。さらに,PNA16-PEGとミスマッチでは自由エネルギーに大きな差はみられず,1塩基の違いでは相補鎖安定性にほとんど寄与しないことがわかる。一方で,PP_ATG01の1塩基ミスマッチによるTm値への影響は,N末端側のPNA配列が1塩基異なるPP_ATG01_MM2と比較すると,C末端側のPNA配列が1塩基異なるPP_ATG01_MMで顕著に熱安定性が低下した。これは,PNA-CおよびPNA-Nの熱力学パラメーターも示すとおり,Tm値の高いPNAドメインが1塩基認識を誘起していることがわかった。 無細胞蛋白質合成システムによるルシフェラーゼ発現抑制の結果,PP_ATG01とそのミスマッチ配列では塩基配列依存的に発現を抑制したのに対し、PNA16-PEGとそのミスマッチでは塩基配列依存的に発現を制御していないことから,PEGの両末端にPNAを配する分子構造が1塩基を認識して遺伝子発現を制御していることが示された。ただし,PNAドメインのTm値を念頭に置いた分子設計が必要であることも併せて示された。 また、PPCにローダミン誘導体を導入したPPCと局在マーカー共存下における細胞内輸送挙動を検討した結果、マクロピノサイトーシス経路で細胞内輸送される可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、H23 年度:PNA-PEG コンジュゲートの設計とin vitro での特異複合構造(DNA インベージョン,1塩基認識能)を検討し,遺伝子発現制御が可能な高分子型人工核酸モデルを構築。H24 年度:無細胞タンパク質合成システムを利用した遺伝子発現制御を目的として,発現プラスミドの構築ならびに先年度に調製した高分子型人工核酸モデル(PNA-PEG コンジュゲート)による発現抑制効果について検討するとともに,細胞内輸送に関する基礎的知見を得る、ことを予定していた。平成24年度の目標には、 1) 無細胞タンパク質合成システムを利用した遺伝子発現制御の評価(PNA塩基配列との相関について検討) 2) 機能性PNA-PEGコンジュゲートの調製と物性評価(蛍光分子修飾による細胞内トランスフェクトを蛍光顕微鏡観察より評価) のすべてが、達成されており、加えて平成25年度に予定している細胞内輸送挙動に関する知見について、その挙動を明確にする結果が得られた。以上の結果より、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
目標概略:細胞への核内輸送を評価し,到達目標とする細胞内での高分子型人工核酸モデルによる遺伝子発現制御を検討する。転写段階の制御と共に,細胞質内に存在するncRNAの阻害剤(inhivitor)として応用展開し,ncRNAの網羅的探索と機能評価系の構築を探る。 1) 細胞を用いた遺伝子発現制御の評価 癌由来細胞,繊維芽細胞,幹細胞を細胞種として各々の細胞にルシフェラーゼ発現プラスミドをトランスフェクトし,安定したルシフェラーゼ発現細胞を樹立する。得られた樹立細胞にPNA-PEGコンジュゲートをトランスフェクトし,ルシフェラーゼ発現量をルミノメーターで測定する。最終的には,特異複合構造と遺伝子発現の相関性を評価する。転写制御による細胞の発生・分化を検討する。 2) 応用展開~アンチセンスRNA, ncRNA inhivitorとして~ PNA-PEGコンジュゲートを細胞質内輸送し,細胞質内のmRNAをターゲットとしたアンチセンスRNA(mRNA-PNA-PEGコンジュゲートの相補鎖形成(ワトソンクリック型))によるタンパク質発現制御を評価する。ncRNA inhivitor:各細胞における既報のncRNAをもとに, inhivitorとなるPNA塩基配列を設計し,阻害効果を評価する。あるいは,ncRNAモデルとしての促進効果を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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