ペプチド核酸(PNA)はDNA/RNAと高い相同性を示すだけではなく,生体内分解耐性に優れるなど人工核酸モデルとして期待される一方で,ゲノム配列認識が必要な16塩基程度では水溶性の低下や融解温度の上昇など通常の生態環境での展開が困難とされている。本研究では,これらの問題点を解決した1塩基認識能を増幅する高分子型人工核酸モデルとしてPNA-PEGコンジュゲートの有用性を提示し,アンチジーン,アンチセンスとしての応用展開を念頭においた遺伝子発現制御の可能性について検討した。 Polyethylene glycol (PEG) の両末端にペプチド核酸を配する系統的なPNA-PEGコンジュゲートを調製し,無細胞タンパク質合成システムを用いた遺伝子発現を評価した。さらに、相補鎖形成挙動による熱力学パラメーターの解析によりこの機構を解明することを目的とした。無細胞タンパク質合成システムによる遺伝子発現抑制効果を評価した結果、PNA-PEGコンジュゲートはアンチセンスRNAとして作用しており、1塩基の違いを明確に認識した発現制御が可能であることが示された。また,熱力学パラメーターを算出した結果、PEGの両末端にPNAを配する分子構造が1塩基を認識しており、各PNA部分のTm値の差がこの1塩基認識機構に大きく寄与していることが示された。 PNA-PEGコンジュゲートによる細胞内遺伝子発現制御を目的として、細胞内輸送について検討した。ローダミン誘導体を末端に導入したPNA-PEGコンジュゲート (SRB-PPC) を調製し,無血清培地に所定濃度のSRB-PPCと各マーカーを添加した後のHeLa細胞を蛍光顕微鏡で観察した。この結果,SRB-PPCがマクロピノサイトーシスマーカーであるFITC-dextranと共局在することが確認されたが,マクロピノソームからのリリースは観察されなかった。マクロピノソームからのリリースを目的として,リリースシグナルを共存させた結果,顕著な細胞質へのリリースが観察された。
|