研究概要 |
本研究では,結晶性高分子材料の耐熱性を決定する結晶融解現象について,その測定・解析手法を確立することを目的としている。特に,近年,高性能化・高機能化が期待されているアイソタクティック・ポリプロピレンの融解温度領域での動的過程(キネティクス)を明らかにする。最終年度である本年度は,タクティシティ,分子量が制御されたポリプロピレンおよびポリエチレン試料について,以下の研究成果が得られた。 前年度までに引き続き,10,000℃/sまでの超高速昇温が可能なマイクロチップセンサーを用いた熱測定法であるFlashDSCの融解キネティクスへの適用が非常に有用であることを実証した。すなわち,高速昇温により再組織化の効果を抑えた上で,結晶化温度で形成された結晶そのままの状態での融点を決定することが可能となった。得られた融点は純粋に過加熱による効果で高温側にシフトする。過加熱によるシフト量の昇温速度依存性は,代表者が提案している融解キネティクスモデルにより定量的な評価が可能となり,その結果,過加熱度ゼロの状態での結晶化温度で形成された結晶そのままの状態(すなわち折りたたみ鎖高分子結晶)の平衡融点が決定された。得られた融点と折りたたみ鎖結晶の厚さとの相関を取る(Gibbs-Thomsonプロットを行う)ことで,結晶性高分子材料の真の(すなわち伸びきり鎖結晶の)平衡融点を決定することが可能となった。ラメラ厚は小角X線散乱を用いて決定した。ポリエチレンで得られた結果は伸びきり鎖結晶で得られた融点の文献値と良く一致しており,本手法の有効性が確認できた。
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