研究課題/領域番号 |
23550247
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
緒方 智成 熊本大学, イノベーション推進機構, 准教授 (90332866)
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研究分担者 |
栗原 清二 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (50225265)
桑原 穣 熊本大学, 自然科学研究科, 助教 (60347002)
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キーワード | アゾベンゼン高分子液晶 / 光アクチュエーター / 多層膜 / プッシュプル型アゾベンゼン / 自己組織化 / 面外配向 |
研究概要 |
本研究の目的は光応答性高分子液晶多層膜フィルムの光運動挙動における「可視光による光運動」および「高速応答化」である。本年度はこの目的を達成するために、可視光応答性アゾベンゼンモノマーの設計・合成・評価、高分子ネットワークの固定化、多層膜構造の最適化の検討を行った。 可視光応答性アゾベンゼンモノマーは、可視光応答性と液晶性を同時に併せ持つような分子設計を行い、二種類の新しいモノマーおよび従来の可視光応答性モノマーなどを組み合わせた光応答性高分子を数種類合成し、その光応答性、配向性、液晶性を観察した。その結果、可視光応答性および高速応答性は全ての高分子で確認されたが、配向性は一部の高分子で面内配向性がわずかに確認されたのみで、求められる垂直配向性や高い配向性を有するアゾベンゼン高分子は得られなかった。これは、作成したアゾベンゼン高分子がいずれもスメクチック液晶性を示さなかったためと推測している。また、これらのアゾベンゼン高分子から作成した多層膜は、想定してた光運動性は示さなかった。 高分子ネットワークの固定化は、反応性側鎖を有するモノマーとアゾベンゼンモノマーを共重合し、多層膜を構築したのち架橋処理により行った。液晶性や光応答性を保ちつつ高分子ネットワークを固定し、運動エネルギー伝達効率の向上と塑性変形低減による繰り返し性の向上を達成した。 また、様々な層構造の多層膜を作製し、光運動性を観察することで光運動に最適な膜構造を検討した。その結果、膜厚、層数、膜厚パターンそれぞれが光運動性に影響を及ぼしており、最適な構造があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的においてもっとも重要な可視光応答性高分子液晶が期待していた「垂直配向性」を示さないため光運動性を有する多層膜が得られていないことがネックとなっている。 この点以外の目的については、おおむね達成しているため、この光応答性高分子液晶を得ることができれば、これまでの結果を適用することで、目的を達成できると考えている。 計画では、本年度中に可視光応答性を達成し、次年度以降に最適化などを行う予定であったため、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、可視光応答性と配向性を兼ね備えるアゾベンゼン高分子の合成を目指す。その中でも最も配向秩序性の高いスメクチック液相相の発現を狙い、分子設計を行う。これまでに検討で、可視光応答性を発現させるためにプッシュプル構造を導入したアゾベンゼンの電子吸引基として採用したニトロ基は、プッシュプル型アゾベンゼンには適しているが、液晶性発現に対しては不可能ではないが適した構造でないことも知られている。また、電子供与基として用いていたイミノ基も分子の直線性を低下させ、液晶性を阻害していることが予測されている。そこで、シアノ基やエチレントリカルボニトリル基を電子吸引基として用い、電子供与基としてはエーテルあるいは環状アミンなどの直線性を有するアミノ基を採用する。さらに、スペーサーとしてヘキシル基を用いていたが、この長さによっても液晶性が大きく変化するため、このスペーサー長も変化させる。以上の条件でアゾベンゼンモノマーの設計および合成を行い、液晶性と可視光応答性の同時発現を目指す。 新たに合成したモノマーを用いて高分子を作製する際、これまでの検討で得られた高分子ネットワークの固定化や多層膜構造の最適化を適用し、運動効率、運動再現性、高層く応答性を有する光運動性デバイスの構築および光運動性の評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度はアゾベンゼンモノマーの設計・合成・評価が主となる。次年度採用する構造は、これまでの検討で用いたアゾベンゼンモノマーより合成のステップ数が1~2段増える。また、スペーサー長の変更も含め、様々な組み合わせで多種類のモノマー合成を行う。この合成の一部にはやや高価な試薬も必要となるため、物品費のうち試薬購入費が大半を占めることとなる。また、評価に用いるキセノンランプのランプの交換も予定している。 その他にも、これまでの成果を公表するため、2~3件の学会参加費用および旅費も支出する。
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