研究課題/領域番号 |
23550248
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
秋葉 勇 北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (80282797)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 高分子ミセル / 制御ラジカル重合 / 小角X線散乱 / ブロック共重合体 |
研究概要 |
本研究ではシェル架橋ミセルを前駆体として中空ナノ粒子を創製することを最初の目標としている。この目標と達成するためには、シェル架橋ミセルの構成成分となる異種高分子鎖間の連結点を容易に切断することが可能な両親媒性ブロック共重合体の合成が必要となる。そこで、まず、目標とする高分子の合成を可能にする、2つの異なる制御ラジカル重合の開始能を持つ開始剤(双頭型制御ラジカル重合開始剤)の合成を行い、次にこの開始剤を用いた両親媒性ブロック共重合体の合成を試みた。本研究では、2つの制御ラジカル重合機構として原子移動ラジカル重合(ATRP)とニトロキサイド媒介ラジカル重合(NMRP)を選択した。開始剤の合成は一段階の反応で、高収率で目的物を得ることができた。これを用いてブロック共重合体の合成を行ったところ、開始剤が持つ2つのラジカル重合を逐次反応で行う場合、ATRPから行うと重合は進行しないが、NMRPから行うと制御ラジカル重合が進行することが分かった。この結果により、連結点の切断が可能なブロック共重合体の合成が可能になった。 次に上記の方法で合成した両親媒性ブロック共重合体のミセル溶液の調製および加熱による連結点の切断について検討を行った。調製した溶液内で、合成したブロック共重合体がミセルを形成していることを小角X線散乱法および動的光散乱により確認した。このミセル溶液を加熱したところ、切断を誘発するための助剤を特に何も加えない場合、80℃まで加熱しても切断が生じないことが分かった。これに対し、切断を誘発するためにニトロキサイドラジカルを加えて加熱したところ、70~80℃において連結点が切断されることが分かった。この結果をシェル架橋ミセルに適用することで、中空ナノ粒子の創製が可能になると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の最大の目標は、連結点を容易に切断することができる両親媒性ブロック共重合体の合成である。そのために、双頭型開始剤に組み込む制御ラジカル重合機構を検討し、実施可能な分子設計を確立した。さらに、これを用いて両親媒性ブロック共重合体の合成を実現する手法を確立できた。連結点の切断については、当初計画では添加剤等を利用することを計画していなかったが、それでは目標の達成が難しいため、添加剤を利用した。ただし、これによるミセルの構造、物性等の変化がなかったため、研究の大筋に対する変更ではなく、研究を成功に導くための最善の方法である。また、連結点の切断については、次年度も引き続き実施する予定ではあったが、今年度の成果で方法が確立されたため、計画よりやや進んでいるが概ね計画通り進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
連結点が切断可能な高分子ミセルの合成に成功したので、今後は、この高分子ミセルからのシェル架橋ミセルの合成とそれを用いた中空ナノ粒子の合成を行う。 シェル架橋ミセルの合成については、まず、現在得られている高分子ミセルの親水性鎖が持つ反応性を利用して架橋を施す合成経路を検討する。これに関しては、2つの経路が想定できる。1つ目はミセルを形成したのちに架橋する経路、2つ目は希薄な有機溶液中で架橋を施したのち、溶媒置換により合成する経路である。これらの経路について、検討を行い、シェル架橋ミセルの合成を行う。 合成したシェル架橋ミセルの中空ナノ粒子への転換については、切断された疎水性高分子を粒子の外部へ取り出す技術の確立が必要となる。これにはシェルの架橋密度がもっとも重要な因子になると考えることができる。また、脱離した高分子は溶媒の水に不溶であることから、内部に残存している方が熱力学的に有利である。これを解決するための方法(溶媒抽出法など)などを検討し、中空ナノ粒子の合成を実現する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は、合成するために試薬やガラス器具などの消耗品への使用を主とする。特に合成に用いるガラス器具の中には、特注のものがあり、その購入に多くの研究費を使用する。また、大型の設備の購入はないが、本研究では、大型放射光施設(SPring-8)を用いてミセルや中空ナノ粒子のキャラクリゼーションを行う。したがって、そのための出張旅費および測定に必要な石英毛細管などの比較的高額な消耗品に多くの割合で使用する。
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