研究課題/領域番号 |
23550248
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
秋葉 勇 北九州市立大学, 国際環境工学部, 教授 (80282797)
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キーワード | 高分子ミセル / 動的共有結合 / 小角X線異常散乱 |
研究概要 |
本研究の目的は、薬物送達システム等のナノキャリアーとなりうる、柔軟かつ安定な殻からなる高分子中空ナノ粒子を創製することである。 昨年度までに、前駆体となるブロック共重合体の合成に成功している。また、得られた高分子からなる高分子ミセルの構造を明らかにし、外殻の架橋にも成功している。本年度は、前駆体高分子ミセルの外殻-内核切断による中空ナノ粒子への変換と内部構造の詳細な解析法を構築を目指して研究を実施した。 前駆体高分子ミセルの中空ナノ粒子への変換においては、変換処理を施すことにより、高分子ミセルの構造に変化は見られ、外殻と内核が切断されたことが確認できた。しかしながら、小角X線散乱測定による内部構造の詳細な解析を行ったところ、粒子内部が中空になっておらず、外殻から切断された疎水性高分子鎖が内部に残存していることが示唆された。 次いで、粒子内部の組成分布を明らかにするための詳細な解析法として、小角X線異常散乱(ASAXS)法の確立を行い、変換前後でのミセル内部の状態を明らかにすることを試みた。その結果、ASAXSを用いた高分子ミセルの内部構造解析に、他に先駆けて成功し、高分子ミセル内部の組成分布解析の新たな手法を確立することができた。この手法を用いて、変換前後におけるミセルの内部構造解析を行ったところ、返還後の粒子内部には前駆体由来の疎水性高分子が多く残存していることが明らかになった。これは、外殻が架橋されているために、切断された高分子鎖が通過することができず、粒子内部に残存したと考えれることができる。 今後は、外殻の架橋密度の調整、抽出方法の検討など、外殻-内核の切断処理後の粒子内部に残存している疎水性鎖を効率よく取り除く手法を確立し、目標とする高分子中空ナノ粒子を創製する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度終了までに目標としていた、ブロック共重合体の合成、前駆体となる高分子ミセルの作成、高分子ミセル外殻の選択的架橋によるシェル架橋型高分子ナノ粒子の創製および動的共有結合を利用した、シェル架橋型高分子ナノ粒子の外殻-内核切断手法の確立は達成した。完全な中空ナノ粒子化はいまだ達成されていないが、ほぼ順調に進展していると考える。また、主たる研究目的からはずれるが、放射光を利用した新しい高分子ナノ粒子の内部構造解析手法として、小角X線異常散乱法を利用した内部構造解析法を確立した。この手法は、本研究のみならず、多方面に活用することが可能である手法である。この手法を他に先駆けて確立した点は、研究の進展として評価できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、未達の課題は、シェル架橋型高分子ナノ粒子の中空ナノ粒子への変換である。外殻と内核の切断は達成されているが、切断された内核成分を外殻を通して粒子外部へ排出する原理の構築が最終年度の最重要課題である。これを達成するために、1)外殻の架橋密度のの最適化、2)内核成分の抽出方法の検討を行い、外殻-内核の切断処理後の粒子内部に残存している疎水性鎖を効率よく取り除く手法を確立することで、高分子ナノ中空粒子の創製を目指す。また、現在はブロック共重合体の異種分子鎖間の結合点のみに動的共有結合を導入しているため、ナノ粒子の外殻と内核の切断のみによる中空化を検討しているが、これでは、内核成分の分子量が大きい場合、外殻の網目を貫通して外部に排出されることが困難である。そこで、動的共有結合を疎水性鎖の主鎖に導入し、低分子量化することによって効率よく内核成分を排出できるシステムの構築を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
一部手法の変更の検討と新しい解析法をさらに精緻化する必要が生じている。前者に関しては、新たな分子設計を行い、これを達成するために必要な試薬およびガラス器具の購入に研究費を用いる。一方、後者に関しては、放射光施設でに実験が必須である。それ故、旅費として研究費を使用する。
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