研究課題/領域番号 |
23550251
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
山下 俊 東京理科大学, 理工学部, 准教授 (70210416)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ポリイミド / 濡れ性 / プリンタブルエレクトロニクス / フレキシブルエレクトロニクス / 太陽電池 / 熱伝導性 / インクジェット |
研究概要 |
光照射によって表面の濡れ性を変化させられるポリイミドを合成し、その物性評価を行った。ポリイミドに保護基を導入したもの、べンゾフェノン基を導入したもの、それらを複合化したものを合成し、製膜フィルムに光照射したところ、水滴の接触角が70度以上も変化し、非常に大きな極性変換を示すことが分かった。反応機構を詳細に調べたところ、化学増幅反応によって脱保護が誘起されることによる極性変換に加え、オニウム塩の分解、べンゾフェノンによる水素引き抜きが効果的に作用していることが分かった。また、ポリイミド骨格として脂肪族を導入することにより得られる透明ポリイミドでも同様の極性変換が得られたが、全芳香族ポリイミドでも極性変換の効率は低下せず、効率よく極性を変えられることが分かった。これは、ポリイミドの電荷移動形成が光化学反応に影響を及ぼすことが既に我々の研究によって明らかにされているが、ポリイミド表面の領域で反応が局所的におこるため電荷移動の影響はないと考えられた。並行してポリイミドに粘土を複合化した材料の合成を行った。ポリイミドに粘土を複合化することによって、従来のポリイミドよりも格段に耐熱性、力学物性等に優れた基材を合成することに成功した。このポリイミドを用いて同様に光照射すると、表面濡れ性が向上することが分かった。これは添加した無機物により表面状態が変化したためであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
表面濡れ性を光制御できるポリイミド材料を合成したところ、その極性変化特性はインクジェット法によるプリンタブルエレクトロニクス基板としてさらなる応用に用いるのに十分な値であることが分かった。今後引き続き別の分子設計戦略に基づいた材料開発を行うが、今回得られた結果だけでも十分良い材料が得られたことになる。また、反応機構を詳細に検討し極性変換のメカニズムも明らかになった。したがって、単に優れた材料が得られたというだけではなく、今後様々な材料を開発してゆくための分子設計の指針を提案することができた。この知見に基づいて今後さらなる高性能化を図ることができる。また、無機物をポリイミドに複合化することにより極性変化の効率が増加した。この効果は当初は想定していなかった。ポリイミドー粘土の複合化を行うことにより表面濡れ性を向上させるばかりではなく、耐熱性、力学物性などの材料特性が向上し、プリンタブルエレクトロニクス基板として興味を集めている。これは予想外の成果であり、さらなる発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)今回得られた材料の基礎物性評価を終え、さらにプリンタブルエレクトロニクスへの応用に則した評価を進める。得られたポリイミドに光リソグラフィーにより疎水、親水領域のパターンを描画し、それにインクジェット法によるプリンタブルエレクトロニクス用インクを用いて描画を行う。得られた回路の解像度を評価し、基板の分子構造との相関を明らかにする。(2)今回合成した材料の分子設計とは異なる、新しい分子設計に基づいたプリンタブルエレクトロニクス用ポリイミドを合成し、その光反応について検討する。これまで化学増幅型のポリイミドを合成し十分な極性変換がおこることを明らかにしたが、新たに光転移型、水素引き抜き型のポリイミドを合成する。光照射による極性変換とその機能評価を行う。とくに光反応の効率の向上を目指して分子設計を行い、その反応条件の確立と、材料構造との相関を明らかにする。(3)ポリイミドー粘土複合材料を合成し、その光照射による極性変換性能の評価およびプリンタブルエレクトロニクス用材料としての物性評価を行う。ポリマー構造、無機物の構造と、複合化条件を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ポリイミドの光リソグラフィーによる疎水/親水パターニングとインクジェットを組み合わせたデバイス構築という新しいアイデアを実現するポリイミド材料は現在のところ少数の例を除いてあまり知られていない。そこで、本研究においては初年度に様々な分子設計のアイデアを提案し、それに基づいた材料を合成しその中から有効な材料を選ぶ予定であった。ところが、予想に反して、最初に合成した材料が十分な極性変換性能をもつことが分かったので方針を変更し、その材料の特性評価と反応機構の詳細の検討を集中的に行った。その結果として反応機構に基づいて材料を発展させる分子設計を明らかにすることができたので十分な意義があった。当初の予定と異なり合成の比重が減ったため、合成試薬等の購入費を次年度に繰り越すこととなった。一方で、本研究は単なる実用化のための材料の開発を目指すのではなく、光によりポリイミドの極性変換を行うという新しいアイデアを実現するための材料設計の基礎を解明することが重要であるので、今回偶然よい材料が得られたといってもそれでこの分野の研究が完結したわけではない。次年度には当初計画した反応設計によるポリイミド材料の合成を継続しておこない、それらの設計によってどのような反応設計が有効であるか大局的に明らかにする必要があり、またその中から本年度の成果を凌ぐ(たとえば反応性、感度など)材料が得られる可能性があると期待される。そこで、今年度余った予算を繰り越し、合成を継続して行う一方で、より進んだ機能評価を平衡して行う。また、初年度の成果を学会で発表する。
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