微生物由来の多糖類であるジェランガムのゲル化機構を明らかにするために、放射光を利用した時間分解小角散乱測定および赤外・ラマン分光測定を行った。特に、赤外・ラマン分光測定の結果からはジェランガムのゲル化過程を官能基レベルで調べることに初めて成功し、さらにゲル化におけるpHの影響およびカチオン添加による影響を調べた。 赤外・ラマンスペクトルの温度変化測定からは、溶媒を重水にすることでCOO-基と水によるOH基によるバンドを分離することができ、コイル-ヘリックス転移による骨格振動のバンドの変化をとらえることに成功した。特に、ゲル化の鍵を握るCOO-基が形成する水素結合がゲル化過程でどのような挙動を示すのかに注目し、詳細に検討したところ、コイル-ヘリックス転移と同時にCOO-基とまわりの重水との水素結合が弱まることを明瞭にとらえることに成功した。さらにCH伸縮についても、コイル-ヘリックス転移に伴うバンドの変化が確認できた。 pHが高いときにはカルボン酸が完全に解離した状態にあるためゲル化温度に変化は見られないが、pHが低いときにはpHを下げることでゲル化温度が低くなることが示された。これは、pHが低いときには酸加水分解の影響が大きく、低分子量のジェランガムが存在するため、2重らせんを形成しうるジェランガム濃度が下がったためと考えられる。カチオンの添加では1価、2価カチオンともに、カチオンの添加でより高い温度でのゲル化が確認できた。また1価、2価カチオンでのゲル化機構の違いをとらえることに成功した。これは、水和を考慮したイオン半径を考えると、用いた2価カチオンでは差がみられないためであると考えられる。放射光を利用したゲル化過程の研究では、ゲル化によって分子鎖が棒状になること、pHが小さくなるにつれその半径が大きくなることが分かった。
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